賃貸住宅と小さな人影の周りに、外壁や窓、配管、ひび割れの断面が配されたイラスト
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管理会社から「そろそろ大規模修繕を考えた方がいいですね」と言われたことはありませんか。

築年数もそれなりに経っているし、外壁も少しくたびれてきた。確かに、いつかは工事をしなければならないのだろう。そう思って見積もりを依頼してみたら、予想以上の金額が出てきた。「こんなにかかるの?」「ほかの会社ならもっと安くできるんじゃない?」と、驚いてしまうかもしれません。

大規模修繕工事は、賃貸経営の中でも大きな支出を伴う仕事です。簡単には決められませんし、複数の会社から見積もりを取って比較したくなるのも自然なことです。ただ、その前に一つ確かめたいことがあります。

その見積書に書かれている工事が、なぜ自分の建物に必要なのか、説明できるでしょうか。

見積書の金額が妥当かどうかを考えるには、その前提となる工事内容を理解する必要があります。自分の建物には、いつ、どんな工事が必要なのか。そこを確かめることが、見積もりを比較するためのスタートラインです。

1.大規模修繕は、一つの工事ではない

大規模修繕というと、建物全体を足場で囲み、外壁をきれいに塗り直す工事を思い浮かべる方もいるでしょう。もちろん、それも大規模修繕の一つですが、実際にはさまざまな工事を組み合わせて行います。

代表的なものを挙げると、次のような工事があります。

工事の対象主な工事内容
屋根・屋上・バルコニー屋上防水、バルコニー防水、雨水の排水部分の補修
外壁塗装、吹付仕上げ、タイルの浮き・ひび割れ補修、シーリングの打替え
共用廊下・階段床シートの張替え、防水、手すりや鉄部の塗装
建物設備給排水管、貯水槽、照明器具、エレベーターなどの補修・更新
外構駐車場舗装、区画線、駐輪場、フェンス、植栽
共用部分エントランス、集合ポスト、掲示板、宅配ボックスなどの改修・更新

これらをすべて一度に工事するわけではありません。建物の構造や付帯する設備、築年数、劣化状況によって、必要になる工事は異なります。また、同じ外壁工事でも、傷んだ部分を補修するのか、表面を塗り直すのか、外観の印象を変えるために仕上げを変更するのかによって、工事の目的も金額も変わります。つまり、「大規模修繕一式」として提案された工事でも、その中身は建物や提案内容によって大きく違うのです。

見た目が変わらない工事にも、大切な役割がある

例えば、外壁の色をベージュから濃いグレーに変更すれば、建物の印象は大きく変わります。エントランスのタイルや装飾をリニューアルしたり、宅配ボックスを新設したりすれば、入居者にも工事の成果が伝わりやすいでしょう。一方、屋上やベランダの防水工事はどうでしょうか。

これまで雨漏りを経験していなければ、普段はまず上がることのない屋上に多額のお金をかけることに、あまり意味を感じないかもしれません。工事が終わっても、建物の外観は変わりませんし、入居募集に好影響もないからです。しかし、防水層には雨水が建物内部へ浸入するのを防ぐ役割があります。劣化を放置すれば、やがて漏水などの不具合につながる危険性が高まります。

外壁のタイルも同様です。表面の見た目に大きな変化がなくても、目地やシーリングの劣化、タイルの浮き、下地のひび割れなど、経年に伴い確認しておくべき問題があります。必要な補修を行わなければ、漏水や剥落につながる場合もあります。

見た目では判別しにくいけれど、建物の寿命や機能を保つために重要な工事が大規模修繕には含まれます。もちろん、工事の優先度や必要性は、実際の劣化状態や工法によって異なりますが、大切なのは、工事をすると何が変わるのかだけでなく、工事をしなかった場合に何が起きるのかを理解することです。

大規模修繕には、すでに起きている不具合を直す工事、これから起きる不具合を予防する工事、建物の美観や利便性を高める工事があります。一つの工事が複数の目的を持つこともありますが、見た目の変化が大きい工事ほど価値が高いとは限りません。建物の機能を守るための工事にも、目を向ける必要があります。

2.自分の建物に必要な工事は、どうやって調べる?

自分の建物にどんな大規模修繕工事が必要なのか。それを知るためには、専門的な建物調査が必要になります。屋上防水や外壁、共用廊下、建物設備などの劣化状況を確認し、どこに、どのような補修や更新が必要なのかを調べるものです。普段の巡回点検とは異なり、大規模修繕の工事範囲を検討するための調査です。

まずは、普段から物件を任せている管理会社に、「大規模修繕を検討したいので、必要な工事を判断するための建物調査と、工事内容の提案をお願いできますか」と相談してみましょう。

管理会社の中には、建築の専門担当者がいて、自社で劣化調査や修繕計画の検討ができる会社もあります。一方、日常の賃貸管理が中心で、大規模修繕に必要な専門調査には対応できない会社もあります。その場合には、調査ができる建築会社や大規模修繕の専門業者を紹介してもらえないか相談してみるとよいでしょう。紹介が難しければ、大家さん自身が外部の専門業者を探す方法もあります。

管理会社は、これまでの修繕履歴や入居者から寄せられた不具合の情報を持っている立場です。そうした情報は専門業者が建物を調査する際にも役立ちますし、実際に大規模修繕工事が始まれば、入居者への案内や立ち入りの調整、工事中の問い合わせ対応などで管理会社との連携も必要になります。外部の業者に依頼する場合も、できるだけ管理会社に協力してもらえる形で進めるとよいでしょう。

見積もりと一緒に、調査の根拠を確認する

本来は、大規模修繕に必要な建物調査を行い、その結果から工事内容を検討し、範囲や仕様を決めてから見積もりを取るのが分かりやすい進め方です。しかし、実際には調査だけを独立して依頼することは少なく、施工会社に見積もりを頼み、その過程で現地調査を行うことがほとんどでしょう。

だからこそ、見積もりを受け取ったときには、金額だけでなく、その工事を必要と判断した根拠も確認してください。

建物調査では、建物の劣化箇所を写真や図面に記録し、劣化状況や補修の必要性をまとめた調査報告書が作成されることがあります。

例えば、外壁にひび割れがある場合、単に「外壁補修が必要です」と言われても、大家さんにはどの程度の問題なのか分かりません。しかし、実際のひび割れの場所や幅、周囲の状態を示しながら、雨水の浸入や鉄筋の腐食など、どのような問題につながるおそれがあるのか説明してもらえれば、工事の必要性を理解しやすくなります。

屋上防水についても同じです。防水層に膨れや剥がれが見られる場合、それがどのような状態なのか、原因として何が考えられるのか、今すぐ補修が必要なのかを確認します。大事なのは事象の有無だけではなく、それが実際に建物に及ぼす影響を分かるように説明してもらうことです。

こうした調査資料は、すべての会社が同じ形式で提出してくれるわけではありません。調査の範囲によっては別途費用が発生することもあります。それでも、高額な工事を判断するのですから、少なくとも、どこが傷んでいて、なぜその工事を提案しているのかは、具体的に説明してもらってください。可能なら大家さん自身も現地へ行き、その場で実物を見ながら説明を受けるとよいでしょう。

大家さんが建築の専門家になる必要はありません。ただ、自分がお金を払う工事の目的と根拠は理解しておく必要があります。

会社によって提案が違ったら、どうする?

複数の会社から見積もりや工事提案を受けると、その内容が異なることがあります。A社は屋上防水と外壁の全面改修を提案し、B社は劣化が進んだ部分の補修を中心に提案する。C社はさらに共用部分の改装まで勧めるかもしれません。

この段階では、単純に金額を比較しても、どの会社が自分の物件に適切な提案を出してくれたのかは分かりません。まずは、それぞれの会社がどの部分を調査し、どんな状態を確認して、その工事が必要だと判断したのかを比べます。

なぜ全面改修が必要なのか。部分補修では対応できないのか。今回は見送れる部分があるのか。見送った場合には、どのようなリスクが残るのか。提案が食い違ったときこそ、その理由を丁寧に聞いてみることが重要です。

こうして調査結果と提案理由を確かめると、建物に必要と考えられる工事が見えてきます。ただし、提案された工事をすべて今回実施するかどうかは、また別の判断です。

3.必要な工事が分かったら、どこまで実施する?

建物の調査によって、傷んでいる箇所や必要と考えられる工事が分かってきました。しかし、専門家が判断できるのは主に建物の状態と、それに対応する工事の必要性です。今回どこまで工事を行うかを決めるには、所有者がこれから建物をどう使い、どう経営していくのかという視点も欠かせません。

分譲マンションでは、一般に長期修繕計画を作成し、修繕積立金を準備しながら、管理組合が工事の時期や範囲を検討します。建物の状態や資金状況に応じて計画を見直すこともありますが、計画が検討の出発点になります。一方、一棟所有の賃貸住宅では、建物の維持管理に加えて、賃貸事業としてどこにお金をかけるかを所有者自身が判断します。長期修繕計画を立てることは賃貸住宅でも有効ですが、築年数だけで実施する工事が決まるわけではありません。

例えば、長く保有して次世代へ承継する予定であれば、今回の不具合への対応だけでなく、将来の設備更新や維持管理費も見据えて、工事をどの時期に組み合わせるか考える必要があるでしょう。一方、数年後の売却を検討しているなら、売却までに維持すべき建物の状態を確認したうえで、追加改修が売却条件や価格にどう影響するかを考えることになります。売却するから修繕は不要、長く保有するから何でも一度に直す、という単純な話ではありません。

仮に調査で、屋上防水の劣化、鉄部の傷み、エントランスの古さが指摘されたとします。屋上防水は漏水につながる状態なら対応の必要性や時期を専門家に確認する。鉄部は腐食の程度や安全面への影響を踏まえて今回施工する範囲を検討する。エントランスの刷新は建物の印象や募集条件の改善を狙う投資として、費用に見合う効果が期待できるか考える。このように、同じ調査から挙がった工事でも、目的と判断基準は異なります。

なお、安全上の問題や差し迫った漏水など、早急に対処すべき不具合を経営上の都合だけで放置することはできません。そのうえで、今回行う必要がある工事、時期を調整できる工事、美観や利便性を高めるために加える工事を分けることで、投資の優先度をつけやすくなります。

また、築年数や一般的に設定されている修繕周期はどう考えるとよいでしょうか。

「築何年を目安に修繕する」といった修繕工事の周期表は、調査や資金準備の時期を考えるための参考になります。ただし、劣化の進み方は構造、材料、立地環境、過去の維持管理によって異なります。税務上の法定耐用年数も、その年数になったら工事が必要になるという意味ではありません。実際の修繕判断は、物件の状態を調査で確かめたうえで、経営方針と合わせて考えることが大切です。

建物に何が必要かを調査結果から理解し、今回どこまで投資するかを経営者として決める。 そうすれば、最初に受け取った提案のうち、どの工事を採用し、どの工事について変更を求めるかが整理できます。

4.工事範囲を決めたら、見積書の中身と金額を比べる

建物の調査結果と経営方針を踏まえて、今回実施したい工事の範囲が見えてきました。ここからは、手元にある見積書の内容と金額を比較していきます。

まず確認したいのは、各社の見積書が同じ工事を対象にしているかどうかです。調査と提案を兼ねて依頼した見積もりであれば、会社によって工事の範囲や仕様が異なっていることがあります。そこで、今回実施すると決めた工事を基準に、不要な項目や不足している項目がないかを確認します。

工事範囲が異なっている場合は、そのまま総額を比べるのではなく、必要に応じて見積内容を調整してもらいましょう。これは一から見積もりを取り直すというより、最初の提案を踏まえて、比較する条件を整える作業です。

条件がそろったら、次の項目を確認しましょう。

  • 工事範囲と数量:どこを、どのくらいの面積・数量で施工するのか。
  • 材料・工法・仕様:同じ工事名でも、使用材料や施工方法が異なっていないか。
  • 一式表示の内容:どんな作業や材料が含まれ、どこまでが見積金額の対象なのか。
  • 追加工事・精算条件:施工後に数量が確定する項目や、追加費用が生じる条件は何か。
  • 工期・入居者への影響:工事期間や作業時間、共用部分の使用制限などに違いはないか。
  • 保証・アフター対応:工事後の保証範囲、期間、不具合が起きた場合の対応はどうなっているか。

例えば、タイル補修の数量が仮に計上され、施工時の調査結果に応じて実数精算される契約であれば、当初の見積金額から変動する可能性があります。また、外壁塗装という同じ工事名でも、下地補修の範囲や塗料、施工工程が異なれば、金額にも違いが出ます。

大切なのは、単に一番安い金額を探すことではなく、何にどれだけの費用がかかり、その金額にどんな工事や保証が含まれているのかを理解することです。

金額差の理由まで見て、依頼先を判断する

条件をそろえたつもりでも、工期や保証内容、追加工事の扱いによって、実際の負担は変わります。見積金額が低くても、必要な下地補修が含まれていなかったり、施工後に追加費用が発生する条件になっていたりすれば、結果として高くつくこともあります。反対に金額が高い提案でも、その差に納得できる工事内容や保証が含まれている場合があります。

各社の金額が違うときは、安い・高いだけで結論を出さず、差が生じている項目とその理由を説明してもらいましょう。比較できる条件が整い、調査に基づく工事の必要性にも納得できたなら、金額だけでなく、施工体制、入居者への配慮、工事後の対応も含めて依頼先を判断します。

5.その工事にお金をかける理由を、説明できますか

大規模修繕の見積書には、工事会社が必要だと考えた内容と費用が示されています。しかし、建物の将来をどうするかまで決めてくれるわけではありません。どの工事にお金をかけるのかを最終的に選ぶのは、賃貸経営の当事者である大家さんです。

工事内容に迷ったときには、「この工事をしなかったら何が起きるのか」「今回行うべき部分と、時期を調整できる部分はどこか」「この金額の違いは何によるものか」を、管理会社や施工会社に具体的に聞いてみてください。建築の専門家でなくても、説明を求め、自分の物件の現状と今後の方針に照らして判断することはできます。

大規模修繕の見積もりを比較する目的は、一番安い会社を見つけることではありません。自分の建物に必要な工事を、納得できる内容と条件で実施するために比較するのです。