一つの物件の部屋、階段、敷地を三つの円で拡大し、異なる視点から見るイラスト
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同じ悩みを相談したのに、返ってくる答えが違う

空室が長く続いている部屋がある。今までと同じように原状回復をして募集しても、なかなか決まらない。少し柄のあるクロスに変える程度では大きな違いも出にくいし、家賃を上げられるほどの変化にもならない。

そんなとき、「最近はリノベーションしたって話もよく聞くし、思い切ってやってみようか」と考えることがあります。

まず管理会社へ相談してみました。でも、管理会社にも得意不得意があります。入居募集や日常管理には強くても、大きなリノベーションの企画までは得意ではない会社もあります。出てきた提案を見ても、どうもしっくりこない。

そこでリフォームのイベントや展示会へ行ってみると、賃貸では今まで見たことのないような部屋をつくっている会社が見つかります。デザインも今どきで、施工事例もかっこいい。「こんな部屋なら、ほかの物件とは差をつけられそうだ」と思いました。

500万円かけて工事をして、完成した部屋は期待どおりでした。設備も内装も一新されて、以前とは見違えるほどモダンでかっこいい部屋になりました。自分でも「これはいい部屋になった」と思います。

ところが、募集を始めてもなかなか決まらない。

これだけ工事費をかけたのだから、以前より高い家賃を取りたい。けれど、この地域で、この広さの部屋に、この家賃を払って借りる人がどれくらいいるのか。どんな人を想定して工事をするのか。その人に、どんな条件で、どの媒体を使って募集するのか。管理会社や仲介会社と、そこまで十分に話せていませんでした。

部屋そのものは、とてもよくできています。工事会社も、自分たちの仕事をきちんとやってくれています。

それでも空室期間は延び、最後は家賃を下げて決めることになる。

こういうことはあります。

ここで難しいのは、「工事会社の提案が間違っていた」と簡単には言えないことです。工事として見れば、魅力的な部屋ができているからです。

問題は、その工事が賃貸経営全体の中でどう働くのかまで、つながっていなかったことにあります。

専門家は、それぞれ自分の場所から物件を見ている

賃貸経営では、いろいろな専門家と付き合います。

入居を仲介する会社、入居後の管理や建物をみてくれる管理会社、設備や建築・リフォームなどの工事会社、税理士、金融機関、売買を扱う不動産会社。必要になる場面も違えば、それぞれが持っている知識や経験も違います。

当然、同じ物件を見ても、見えるものは同じではありません。

空室について仲介会社へ相談すれば、どうすれば早く入居につながるかを考えます。家賃を少し下げる、フリーレントをつける、敷金や礼金などの初期費用を見直す。借りる人の入口を広げる方向から考えるのは、仲介を仕事にしている人にとって自然なことです。

工事会社なら、部屋そのものを変える方法を考えます。設備を交換する、間取りを変える、内装を一新する。工事によって物件の魅力を高めることが、自分たちの専門だからです。

売買を扱う不動産会社なら、また違います。収益性が落ちている物件を見て、「地価が上がってきています、今なら高く売れるかもしれません」「この地域で探している買い手がいます」と、売却という選択肢を示すことがあります。

どれも、それぞれの立場から見れば筋の通った話かもしれません。

専門家に相談したのだから、一つの正解が返ってくるはずだと思っていると、ここで迷います。

「あの人はこう言ったのに、この人は違うことを言う。いったい誰を信じればいいのだろう」

でも、専門家によって答えが違うこと自体は、それほど不思議なことではありません。

それぞれが、自分の専門分野から問題を見ているからです。

一つひとつ正しくても、全体として正しいとは限らない

さらに難しいのは、一つひとつの提案がもっともらしくても、全部をつないだ結果が大家さんにとってよいとは限らないことです。

相続の場面でも、似たことが起こります。

親の代で相続対策として賃貸マンションを建てた。でも、実際に相続が起きてみると、相続税を支払うための現金が十分に準備されていなかった。

二代目の大家さんは税理士に相談します。相続税がいくら必要なのかを確認すると、「このままでは現金が足りないので、不動産を売る必要がありますね」という話になる。

そこで税理士から売買を扱う不動産会社を紹介してもらうことがあります。

売買の不動産会社は、相続税の支払い期限内に売れる物件を見ます。買いたい人がいて、価格がつきやすく、取引につながりやすい物件です。

もし所有している中で、収益性の高い稼ぎ頭のマンションがあったとしたら、その物件を売る提案が出るかもしれません。

売却できれば、相続税は払えます。

ところが、そのあとに残るのが、これから修繕が多く発生する古いアパートや、収益の小さい駐車場ばかりだったらどうでしょう。

税金を払うという問題は解決した。でも、収入を支えていた一番よい物件がなくなり、手元には修繕費のかかる物件や収益力の弱い資産が残る。相続のあとも賃貸経営を続けようと思っていたのに、その経営自体が弱くなってしまうことがあります。

これも、税理士が間違った計算や紹介をしたという話ではありません。売買の不動産会社が、売りたくない物件を無理に売ったという話でもありません。

それぞれが自分の仕事をしていても、「売ったあと、この家の賃貸経営はどうなるのか」という別の問いは残ります。

専門家は、自分の専門分野について力を貸してくれます。

でも、複数の専門家の話をつないで、それが自分の賃貸経営全体にどう影響するのかを一緒に考えてくれる相手が、いつも身近にいるとは限りません。

大家さんの仕事は、全部を自分でやることではない

だからといって、大家さんが工事にも税金にも不動産売買にも詳しくならなければいけない、という話ではありません。

それでは専門家に頼む意味がなくなってしまいます。

分からないことは、専門家に聞けばいい。専門的な仕事は、その仕事ができる人に任せればいい。

ただし、その力を何のために借りるのかを決めるのは、大家さんです。

土地を手放したくないのか。家族へ引き継いでいきたいのか。今の収益を安定させたいのか。年齢を重ねても無理なく続けられる経営にしたいのか。

その方向が違えば、同じ提案でも意味は変わります。

「今なら高く売れますよ」という話も、売却を考えている人には大切な情報です。でも、できれば土地を家族に残したいと考えている人なら、価格が高いという理由だけでは決められません。

リノベーションの提案も同じです。

きれいになるか、かっこよくなるかだけではなく、その工事をすることで誰に選ばれる部屋になるのか、想定する家賃を払ってもらえそうなのか、使ったお金をどのくらいの期間で回収していくのか。工事の話と募集の話をつなげて考える必要があります。

専門家から一つの提案を受けたとき、その一部分だけを見て決めるのではなく、それを採用したあと、賃貸経営全体にどう影響が出るのかまで見る。

そこは、大家さん自身が持っておきたい視点です。

分からないなら、判断できるところまで聞けばいい

提案を受けても、説明を聞いただけではよく分からないことがあります。

専門用語が多かったり、相手が当然のように話すので、「こんなことを聞いたら恥ずかしいかな」と思ったりすることもあります。

でも、自分がお金を出し、自分の物件について決めるのであれば、分かったふりをして進める必要はありません。

「なぜ、この方法がいいと思うのですか」

「これをすると、今困っていることの何が変わりますか」

「この工事をした場合、この家賃で募集できそうですか」

「ほかの方法と比べると、どう違いますか」

「この物件を売ったあと、残る家賃収入や資産はどうなりますか」

聞いてみて、「なるほど。それなら自分もそう思う」と腹に落ちたなら、お願いすればいい。

まだ「うん?」が残るなら、その「うん?」が何なのかをもう少し聞けばいいのです。

相手を疑うために質問するのではありません。

自分が判断できる状態まで持っていくために聞く。

専門家から答えをもらうことと、自分が判断できることは同じではありません。

説明を聞き、必要なら別の専門家の視点も借り、それぞれの話がどうつながるのかを考える。そのうえで、自分の経営の方向に合う方法を選ぶ。

それが、大家さんに残る仕事です。

次に提案されたら、「そのあと」を一つ聞いてみる

次に管理会社や仲介会社、工事会社、税理士などから何か提案を受けたら、その場ですぐに答えを出さなくても構いません。

まず、その提案が何を解決しようとしているのかを考えてみてください。

そして、さらにもう一つ、

「それをしたあと、私の賃貸経営はどうなるのか」

と考えてみる。

工事のあと、募集はどうなるのか。家賃はどうなるのか。

売却のあと、何が残るのか。残った物件から、これからどれくらい収入が入るのか。

一つの問題が解決したあとに、自分が望んでいる経営へ近づいていくのか。

そこまで分かれば、専門家の提案は「誰を信じればいいのか」という話ではなくなります。

自分が進みたい方向を決め、そのために必要な専門家の力を借りる。

全部を自分でやる必要はありません。業務は委託してかまいません。

でも、自分が納得して決められるところまで知ることは、誰かに任せることのできない、大家さん自身の仕事です。