土地の区画、複数の建物、硬貨を一枚の地図の上に並べ、資産全体を見渡すイラスト
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ローンが終わると、現金の増え方が変わる

長く返してきたローンを、ようやく返し終えた。

それまで毎月、家賃収入の中から返済に回していたお金が出ていかなくなれば、手元に残る現金は増えやすくなります。

もちろん、実際の賃貸経営では、返済期間中何もせずにローンだけを返しているわけではありません。築年数が進めば修繕も増えます。設備を入れ替えたり、空室対策としてリノベーションをしたり、大規模修繕のために新たな借入を起こしたりすることもあります。

それでも、長年続いてきた大きな返済が終われば、お金の流れが変わることは確かです。これまで返済に回っていたお金の一部が、手元に残るようになります。

「借金もなくなったし、これからは家賃がもっと残る」

そう感じるのは自然なことです。

ただ、地主大家さんの場合、その現金を「これから自由に使えるお金」として考える前に、一度見直しておきたいことがあります。

なぜなら、ローンが終わるころには、賃貸経営だけではなく、これから自分の資産全体をどう持ち、どう次へ渡していくのかという問題が、以前より現実的になっていることが多いからです。

そもそも、何のために賃貸経営を始めたのか

地主大家さんの賃貸経営は、最初から不動産を次々に買い増し、事業を拡大することだけを目的に始まっているとは限りません。

もともと持っていた土地を守りたい。できるだけ資産を目減りさせず、次の世代へ渡したい。更地のまま持つのではなく、賃貸住宅を建てて活用し、家賃収入を得ながら土地を残していく。

そうした目的から賃貸経営を始めた地主大家さんも多くいます。

これは、新しい地域の不動産を買い足しながら資産規模を拡大していく不動産投資とは、少し出発点が違います。

もちろん、賃貸経営である以上、利益を出すことは必要です。ただ、最終的に何を守りたいのかまでたどると、「代々受け継いできた資産を、次の世代にもできるだけよい状態で渡したい」というところへ戻ってくることがあります。

そう考えると、ローン完済後に現金が積み上がっていくことも、「お金が増えてよかった」で終わる話ではなくなります。

現金は、将来の相続税を支払うためにも必要です。複数の相続人へ財産を分けるときの調整にも使えます。一方で、現金をただ積み上げ続けることが、資産を守って次へ渡すという目的に必ずしも合うとは限りません。

では、増えた現金をどうするのか。

建物へもう一度お金を入れるのか。現金として残すのか。新たな借入を使うのか。保険や贈与などを考えるのか。別の土地活用をするのか。

ここで大切なのは、いきなり方法を選ばないことです。

なぜなら、その答えは、完済したマンション一棟だけを見ても決められないからです。

完済後に増える現金の使い方は、物件だけ見ても答えが出ない

普段の賃貸経営では、まずその物件がきちんと回っているかを見ます。

家賃はいくら入っているのか。管理費や修繕費などにいくら出ているのか。借入はいくら残っているのか。建物はどのような状態で、これからどんな修繕が必要になるのか。

こうした情報を見れば、その賃貸事業の状態はかなり分かります。

ところが、ローンが完済して手元に残る現金が増えてくると、「このマンションをどう経営するか」だけでは答えが出なくなることがあります。同じ額の現金が増えても、ほかの資産や家族構成が違えば、その意味が変わるからです。

そうすると、見る対象は一棟の賃貸マンションだけではなくなります。

土地や建物、預貯金、金融資産、生命保険、借入などを含めて、自分が今どのような資産を持っているのか。そして、その資産をこの先どう持ち、どう使い、最終的に誰へどう引き継いでいくのか。

賃貸経営を見る視点から、資産全体を見る視点へ、一段引いて考える必要が出てきます。

地主大家さんの場合、その中でも相続を切り離して考えることはできません。

もともと、土地や資産を次の世代へ残すことが賃貸経営を始めた理由の一つだったのであれば、「誰に何をどう残すのか」は資産全体を考えるうえで避けて通れないからです。

だから、ローン完済後に増えてきた現金を見て、「節税のために何をすればいいか」と考えたくなりますが、その前に確認しておきたいことがあります。

まず、自分にはどのような資産があるのか。誰がそれを引き継ぐのか。納税に使える現金は足りるのか。財産は分けやすいのか。一次相続だけでなく、その先まで見たらどうなるのか。

そこまで含めて全体を見たうえで、初めて具体的な方法に落とし込むことができます。

同じようにみえるマンションでも、考えることは違う

少し単純化した例で考えてみます。

同じ地域に、築35年、10階建てのRC賃貸マンションを持つAさん、Bさん、Cさんがいるとします。建物の規模や築年数は似ていて、三人とも長年のローンを完済しています。

物件だけを見れば、三人ともよく似ています。

それでも、ほかの財産や家族構成まで広げて見ると、課題はまったく違ってきます。

Aさんは、このRCマンションのほかにも土地や建物をいくつか持っています。ただし、財産の多くが不動産で、預貯金や金融資産はそれほど多くありません。

資産全体を整理し、今相続が起きた場合の税額を試算してみると、「財産は十分にあるのに、相続税を現金で支払おうとすると足りない」可能性が見えてきました。

Aさんにとっては、完済後に増えてくる現金をどう減らすかより、まず納税に使える現金をどう確保するかの方が重要です。不動産の持ち方や整理まで含めて考える必要があるかもしれません。

一方、Bさんは預貯金や金融資産を十分に持っています。相続人も一人で、財産をどう分けるかという問題もそれほど大きくありません。相続税を支払うための現金にも余裕があります。

ところが、RCマンションのローンが終わったことで、さらに毎年現金が積み上がっていきます。

Bさんの場合は、納税資金や分割よりも、増えていく現金を含めた資産全体を、このままの形で持ち続けるのかということの方が大きな課題になります。借入も活用しながら、賃貸不動産の購入を考えるのか。今あるマンションへお金を入れるのか。資産構成自体の組み換えを考えるのか。

同じ「現金が増えた」という状況でも、Aさんとは考える順番が違います。

Cさんには、子どもが三人います。

RCマンションのほかに、築年数の古いアパートと駐車場が複数あり、納税に使える現金もある程度持っています。税金を支払うことだけなら、大きな問題はなさそうです。

ところが、財産を誰にどう渡すかを考えると難しくなります。例えば、長男にRCマンション、次男に築古アパート、三男に駐車場を渡すとします。評価額だけを見れば、ある程度近い金額に調整できるかもしれません。

しかし、RCマンションは毎月安定して家賃を生んでいる一方、築古アパートには近い将来まとまった修繕や建て替えが必要かもしれません。駐車場は建物を持たない代わりに、収益の大きさも今後の活用方法も違います。同じ金額に見えても、受け取る財産の中身は同じではありません。

かといって、RCマンションを三人の共有にすれば、将来、大規模修繕をするのか、売却するのかといった重要な判断で意見が合わなくなる可能性もあります。Cさんの場合、優先して考えなければならないのは、税額そのものより財産をどう分けるかです。

Aさん、Bさん、Cさんの三人は、同じようなRCマンションを持ち、同じようにローンを完済しています。

それでも、納税が課題になる人もいれば、節税が課題になる人もいます。分割の方が難しい人もいます。

だから、ローン完済後に「現金が増えたらこれをすればいい」と、すべての大家さんを一括りにはできません。

物件が似ていても、その人の資産全体と家族の状況が違えば、答えは変わります。

だから、まず財産を棚卸しする

では、自分の場合はどうなのか。

それを知るために必要になるのが、財産の棚卸しです。

土地や建物には、それぞれ登記簿があります。預金は複数の金融機関に分かれています。株や投資信託などの金融資産も別々にあり、生命保険も契約ごとに書類があります。借入も金融機関ごとに残っています。

長年それらを管理してきた本人には、「だいたいどこに何をいくら持っているか」は分かっているかもしれません。しかし、一度すべてを整理して、「自分の財産全体は今どうなっているのか」と俯瞰して見たことがある人は、意外と少ないものです。

そこで、土地、建物、預貯金、金融資産、生命保険、その他の財産、借入などを一度一覧にします。

同時に、誰が相続人になるのかを相続関係図で確認します。

さらに、今この時点で相続が起きたら、どのくらいの相続税になりそうなのかを試算します。

配偶者がいる場合は、一次相続だけで終わりではありません。一次相続で誰が何を受け取るかによって、その後の二次相続の姿も変わります。だから、可能であれば二次相続まで含めて見ておきます。

こうして初めて、「自分の場合」が具体的に見えてきます。

棚卸しをすると、「何をするか」の前に「何が問題か」が見える

棚卸しの目的は、きれいな資産一覧表を作ることではありません。

目的は、このまま進んだときに、どこで困りそうなのかを先に見つけることです。

数字にして並べてみると、「相続税はこれだけかかりそうなのに、納税に使える現金が足りない」と気づくかもしれません。納税資金も分割も大きな問題はなくても、節税対策に改善の余地がある人もいるでしょう。財産総額は十分なのに、不動産ばかりで子ども三人へ分けにくいことが見えるかもしれません。

一次相続だけを見るとしっかりと節税ができているように見えても、二次相続まで見ると、トータルの納税金額が大きくなっていることに気づくこともあります。

ここまで来て、ようやく具体的な方法を検討する段階になります。

大規模修繕をする。借入を使う。生命保険や贈与を検討する。現金を残す。不動産を整理する。別の土地活用を考える。

どれも、場合によっては有効な方法です。

ただし、何が必要なのかを見ないまま方法だけを先に選ぶと、「節税はできたけれど、納税に使える現金が足りない」「税額は減ったけれど、兄弟で財産を分けられない」といったことにもなりかねません。

だから、方法から入らない。

まず全体を見る。そのうえで、自分の場合に必要なものを選ぶ。

この順番が大切です。

ローン完済を、資産全体を見直す節目にする

ローンが終わっても、賃貸経営が終わるわけではありません。入居者は住み続けます。家賃も入り続けます。建物もそのまま残り、これからも修繕や設備更新は必要になります。完済したからといって、何かが突然終わり、別のものが始まるわけではありません。

ただ、お金の流れは変わります。

長年返済に出ていたお金が手元に残るようになり、現金が積み上がる速度が変わります。その変化をきっかけに、一度、物件から少し離れて資産全体を見てみる。

自分はいま何を持っているのか。誰へ何を残したいのか。納税に困らないか。財産を無理なく分けられるか。一次相続だけでなく、その先まで考えたらどうなるのか。

そして、その全体像の中で、増えてきた現金をどのように扱うのかを考える。

ローン完済後の現金の使い道に、地主大家さん全員に共通する一つの正解はありません。物件だけを見るのではなく、家族やほかの財産まで含めて、まず資産全体を見渡してみる。

だからこそ、最初に考えたいのは「何をすれば得か」ではなく、「自分の場合は、何が課題なのか」です。

その現在地が見えてから、次の一手を考えてみてはいかがでしょうか。