
決算書は黒字。でも、全然儲かってる気がしない
確定申告の時期になり、1年分の収入や支出をまとめてみると、決算書や収支内訳書には黒字の数字が出ています。税理士に依頼している人なら、「今年も順調ですね」と言われることもあるでしょう。
ところが、賃貸経営用の通帳を見てみると、その黒字に見合うほどのお金が残っているようには思えません。
家賃は毎月入っているし、特別に大きな修繕が続いたわけでもない。思い当たるような無駄な支出もないのに、確定申告の数字と通帳の残高が、どうにも噛み合わないのです。
黒字なのに、なぜお金が残っていないのか。
どこかで支出を見落としているのか、それとも、確定申告の黒字と通帳に残る現金は、そもそも同じようには動かないものなのか。
この違和感を整理するには、まず「帳簿の黒字」と「通帳に残る現金」を分けて見てみる必要があります。
確定申告の黒字と、通帳に残る現金は同じ数字ではない
確定申告で見る黒字は、「1年間の収入」から、「税務上の費用」を差し引いて計算した数字です。一方、通帳に残る金額は、その年に実際に「入ってきたお金」と、実際に「出ていったお金」の差で決まります。
どちらも賃貸経営のお金を表していますが、ここで重要なのは、「税務上の費用」と、実際に通帳から「出ていったお金」が、イコールではないということです。
通帳からは出ていくのに、確定申告では費用にならないものがあります。反対に、確定申告では費用になるのに、その年の通帳からはお金が出ていかないものもあります。
そのため、確定申告では黒字でも、同じ金額が通帳に残るとは限りません。
黒字と通帳の残高が噛み合わないと感じたときは、まず支出を「税務上の費用」と「出ていったお金」に分けて見てみる必要があります。
帳簿と通帳がずれる代表的な原因は、ふたつ
確定申告の黒字と通帳の残高の間に、大きなズレを生みやすい代表的なものは、ふたつあります。
ひとつは、ローン返済の元金部分です。実際には通帳からお金が出ていきますが、確定申告では費用になりません。
もうひとつは、減価償却費です。こちらは確定申告では費用になりますが、その年の通帳からお金が出ていくわけではありません。
このふたつは、反対方向のズレです。それぞれ、どのように黒字と現金の差につながるのかを見てみます。
ローン返済の元金は、通帳から出るが費用にならない
物件の購入にローンを利用している場合、毎月の返済額は、元金と利息に分かれています。
通帳からは、元金と利息を合わせた返済額が引き落とされます。けれども、確定申告で費用になるのは、利息部分だけです。元金は、借りたお金を返しているものなので、税務上の費用にはなりません。
たとえば、毎月の返済額が30万円で、その内訳が元金21万円、利息9万円だったとします。
| 返済の内訳 | 通帳から出る金額 | 確定申告で費用になる金額 |
|---|---|---|
| 元金 | 21万円 | 0円 |
| 利息 | 9万円 | 9万円 |
| 合計 | 30万円 | 9万円 |
実際には30万円が通帳から出ているのに、確定申告で費用として差し引かれるのは9万円だけです。
残りの21万円は、現金としては確実に出ていきますが、確定申告では費用として扱われません。そのため、ローンの元金返済が大きい物件では、確定申告では利益が出ていても、通帳に残る金額は思ったほど増えないことがあります。
ここが、帳簿の黒字と通帳に残る現金がずれる、ひとつ目の場所です。
減価償却費は、費用になるが通帳からは出ない
もうひとつのズレは、減価償却費です。
建物や設備は、購入した年に代金の全額を費用にするのではなく、決められた期間に分けて、少しずつ費用として計上します。これが減価償却です。
たとえば、毎年250万円を減価償却費として計上しているとします。
| 通帳から出る金額 | 確定申告で費用になる金額 | |
|---|---|---|
| 減価償却費 | 0円 | 250万円 |
確定申告では250万円が費用として差し引かれますが、その年に通帳から250万円が出ていくわけではありません。購入代金は、物件を取得したときに支払っているからです。
つまり、減価償却費は、その年には現金が出ていないのに、確定申告では費用として扱われる金額です。
減価償却費が大きい間は、実際の現金の動きに比べて、確定申告上の利益が小さく見えることがあります。反対に、設備などの減価償却が終わると、通帳から出ていくお金が減っていなくても、確定申告上の費用は減り、利益が大きくなることがあります。
ローン元金は、通帳から出るのに費用にならない。 減価償却費は、費用になるのに、その年の通帳からは出ない。
この反対方向のふたつのズレが、確定申告の黒字と通帳に残る現金を分かりにくくしています。
ふたつのズレは、時間とともに変わっていく
ローン元金と減価償却費によるズレは、物件を所有している間、ずっと同じ状態で続くわけではありません。
元利均等返済のローンでは、毎月の返済額がほぼ同じでも、その内訳は少しずつ変わっていきます。返済当初は利息の割合が大きく、返済が進むにつれて利息が減り、元金の割合が増えていきます。
つまり、通帳から出ていく返済額が変わらなくても、確定申告で費用になる利息は減り、費用にならない元金の返済が増えていくということです。
一方、減価償却費にも終わりがあります。
建物本体は長い期間にわたって減価償却しますが、給排水設備や電気設備などは、建物本体より早く減価償却が終わることがあります。
減価償却が終わった設備は、その後も使い続けていたとしても、確定申告で費用として計上することはできません。そのため、通帳から出ていくお金が減っていなくても、費用が減り、確定申告上の利益が大きくなることがあります。
このように、時間がたつにつれて、
- 費用にならないローン元金の返済は増えていく
- 現金の支出を伴わない減価償却費は減っていく
という変化が重なることがあります。
このふたつの金額が近づき、やがてローン元金の返済額が減価償却費を上回ることがあります。
この状態を、一般的に「デッドクロス」と呼びます。
デッドクロスになると、確定申告上の利益が大きくなり、税負担が増える一方で、黒字の数字ほど手元に現金が残らないことが起こりやすくなります。
ただし、デッドクロスになったからといって、すぐに経営が行き詰まるわけではありません。
大切なのは、言葉そのものを怖がることではなく、自分の物件で、元金返済額と減価償却費がどのように変化しているかを確認することです。
自分の物件では、何を確認すればよいか
確定申告では黒字なのに、通帳にお金が残っていないと感じたときは、まず年間の元金返済額と減価償却費を並べて見てみます。
確認したいのは、次の書類です。
- ローンの返済予定表
- 確定申告書と一緒に提出した、青色申告決算書または収支内訳書
- 減価償却費の計算明細
ローンの返済予定表を見れば、毎年の返済額が元金と利息にどのように分かれているかを確認できます。
決算書や収支内訳書、減価償却費の計算明細からは、その年に計上した減価償却費と、今後いつまで償却が続くのかを確認できます。
このとき、今年の数字だけを見るのではなく、今後の変化も合わせて見ることが大切です。
元利均等返済では、返済が進むにつれて元金部分が増えていきます。一方、減価償却費は、設備などの償却が終わると減っていきます。
今は元金返済額より減価償却費の方が大きくても、数年後にはその関係が変わるかもしれません。
まずは、
- 年間の元金返済額はいくらか
- 年間の減価償却費はいくらか
- それぞれが今後どう変わるか
を確認してみてください。
黒字か赤字かだけでは見えなかった、通帳に残る現金とのズレが、少しずつ見えてきます。
黒字の大きさではなく、黒字の中身を見る
確定申告で黒字になっていることは、賃貸経営が順調かどうかを見る大切な材料です。
けれども、同じ500万円の黒字でも、その中身は物件によって違います。
ローンの元金返済が小さく、減価償却費が大きい物件では、帳簿上の利益以上に現金が残っていることがあります。反対に、元金返済が大きく、減価償却費が少ない物件では、黒字の数字ほど現金が残っていないことがあります。
つまり、見るべきなのは黒字の金額だけではありません。
その黒字のうち、実際に手元へ残るのはいくらなのか。 帳簿上の利益と手元に残る現金の差が、これから大きくなるのか、小さくなるのか。
そこまで見て初めて、その物件に今どのくらいの余力があるのかを考えられます。
確定申告の数字と通帳の残高が噛み合わないと感じたときは、黒字か赤字かだけで判断するのではなく、黒字の中身を分けて見てみてください。
年間の元金返済額と減価償却費を並べるだけでも、同じ黒字が、まったく違う意味を持って見えてきます。
なお、確定申告の黒字とは別に、満室で家賃が入っているのに、手元のお金が増えないと感じることもあります。この違和感については、別の記事で整理しています。
満室なのにお金が残らない?家賃収入だけでは見えない経営の余力
自分の物件に当てはめると、よく分からないときは
この記事では、帳簿上の利益と通帳に残る現金がずれる代表的な理由として、ローンの元金返済と減価償却費を取り上げました。
ただし、実際に帳簿と現金の動きを比べてみると、ずれを生むものはこのふたつだけではありません。
税金の支払い、設備や建物への支出、家賃の入金時期など、帳簿に反映される時期や扱いが現金の動きと異なるものは、ほかにもあります。その内容や影響の大きさも、物件によってさまざまです。
確定申告の書類や通帳、返済予定表を並べてみたものの、
- 帳簿と現金が、どこでずれているのか
- それぞれのずれが、手元に残る金額へどのくらい影響しているのか
- この先、そのずれがどのように変わっていくのか
が、うまく整理できないこともあります。
CCC-H 賃貸経営顧問は、物件ごとの帳簿と現金の動きを一緒に見ながら、数字の間にどのようなずれがあるのかを整理する月額制のサービスです。
判断を代行するサービスではありません。ご自分の物件で起きていることを理解し、次に確認すべきことや考えるべきことが見えるよう、継続的に支援します。


