
困ったときほど、管理会社に動いてほしい
賃貸経営をしていると、急に困ったことが起こります。
入居者から水漏れの連絡が入った。近隣から工事の音についてクレームがあった。設備が壊れて、すぐに誰かを手配しなければいけない。
そんなとき、大家さん自身が現場へ行って一つひとつ対応するのは難しいこともあります。だから管理会社へ連絡して、「何とかしてほしい」と頼みます。
ところが、思ったほど動いてくれないことがあります。
「管理料を払っているのに、どうしてこんな対応なのだろう」
「以前はもう少し親身にやってくれた気がする」
そう感じると、管理会社への不満が出てきます。
もちろん、本当に管理会社の対応がよくないこともあります。ただ、管理会社と大家さんとのやり取りを見ていると、それだけでは説明できないこともありそうです。
いざというときに力を貸してもらえる関係は、いざというときに突然できるものではありません。
普段、どのように仕事を任せているか。意見が違ったときに、どんな話をしてきたか。そうした日々のやり取りが、困ったときの関係にもつながっています。
管理会社の仕事にも、採算の取りやすいものと取りにくいものがある
管理会社の仕事には、どれだけの手間がかかるのかを最初から読みやすい仕事と、そうではない仕事があります。
たとえば、入居者からのクレームやトラブル対応です。
電話一本で終わることもあります。でも、話がこじれれば、何度も入居者とやり取りをしたり、現地へ行ったり、近隣住民や工事会社の間に入って調整したりすることもあります。数分で済むか、何週間も続くか、最初には分かりません。
こうした仕事は、手間の割に収益を取りにくいことがあります。一方で、設備交換や原状回復、リフォームなどの工事は、比較的収益を見込みやすい仕事になることがあります。
もちろん、すべての管理会社が同じ収益構造ではありません。ただ、採算の取りやすい仕事と取りにくい仕事を組み合わせながら、管理業務全体を成り立たせている会社があります。
大家さんの立場から見れば、
「管理会社の工事は高い。知り合いのリフォーム屋に頼めば、もっと安くできる。だから工事は自分で発注して、それに関する入居者対応だけ今までどおり管理会社にお願いする」
という分け方は、合理的に見えるかもしれません。
工事代は安くできるし、面倒な入居者対応は管理会社に任せられる。でも、管理会社から見る景色は少し違います。
手間や時間の読みにくい仕事だけを引き受け、収益を得られる仕事はほかへ出ていく。それが続けば、「今までと同じ料金で、今までと同じように何でも対応します」とは言いにくくなっていきます。
安い業者へ頼むなら、そのあとのことまで考える
だからといって、工事はすべて管理会社へ頼まなければいけない、という話ではありません。
大家さん自身が付き合いのある工事会社を持っていることもあります。相見積もりを取ったら、管理会社よりかなり安かったということもあるでしょう。その会社へ頼むのも、大家さんの判断です。
ただ、自分で工事を発注するなら、工事そのものだけではなく、それに伴って発生する仕事まで考えておく必要があります。
たとえば、空室のリフォームを大家さん自身が手配したとします。ところが、工事会社が近隣への周知を十分にしておらず、「朝から工事の音がうるさい」と近所から管理会社へ連絡が入った。
あるいは工事が終わり、新しい入居者が決まったあとに、「洗面台から水が漏れる」と連絡が入った。そのときだけ管理会社へ、「入居者からクレームが来ているから対応しておいて」と頼んだら、管理会社は困ります。
管理会社が自分で発注した工事なら、工事会社への指示もできますし、問題が起きれば自分たちの仕事として対応できます。でも、自分たちが内容を把握していない工事について、問題が起きたときの謝罪や入居者対応だけを求められれば、同じようには考えられません。
分離発注するなら、近隣への挨拶は誰がするのか。工事中に入居者から問い合わせがあったら誰が受けるのか。完成後に不具合が出たら誰が最初に対応するのか。そこまで含めて考える必要があります。
もし「工事会社は自分で選びたい。でも入居者対応までは自分ではできない」というのであれば、先に管理会社へ相談すればいいのです。
「今回はこの会社へ工事を頼みたい。ただ、そのあとの入居者対応はお願いしたい。そこはどうすればいいだろう」
と話をして、工事内容を共有し、必要ならお願いする対応について別途費用を払う。
問題なのは分離発注することではありません。
自分の選択によるメリットだけを取り、そこから生じた責任をあとから相手へ戻してしまうことが、関係を悪くします。
細かく管理すれば、得をするとも限らない
大家さんによって、管理会社へ渡す裁量もかなり違います。
設備の故障や小さなトラブルなら、「5万円未満なら必要だと思った対応をして、あとで報告してくれればいい」という大家さんもいます。
一方で、千円程度の備品を一つ買うだけでも、必ず事前に許可を取らなければいけない大家さんもいます。
もちろん、管理会社へ何でも自由にお金を使わせればいいわけではありません。物件のお金を管理するのは大家さんですから、どこまでを任せるのかは決めておく必要があります。
ただ、すべてを一件ずつ確認する仕組みにすると、そのたびに管理会社は大家さんへ連絡し、事情を説明し、返事を待ってから動くことになります。その間、現場は止まります。
大家さんから見れば、「余計なお金を使われないようにした」と思えるかもしれません。でも管理会社から見れば、「この物件は何をするにも一度確認しなければ動けない」という物件になります。
それが悪いわけではありません。ただ、緊急時にも同じように確認が必要になりますし、担当者が自分で判断できる範囲も狭くなります。
一件一件で損をしないようにすることと、賃貸経営全体で得をすることは、必ずしも同じではありません。
安心して任せるためには、お互いに「話が通じる」ことが大切
管理の仕事は、日々の細かな判断の積み重ねです。
だから管理会社から見て信頼できる大家さんは、不動産や建築について詳しく、専門用語を熟知している人とは限りません。
大切なのは、何かを決めるときに、なぜそう考えたのかをお互いに伝えられることです。
管理会社から「今回はこういう状況なので、この方法で対応したい」と言われたとき、よく分からなければ、そのままにする必要はありません。なぜその方法がよいのか、どこまで管理会社の判断で進めてもらえるのか、自分の考えと違うところがあればどうすればよいのかを聞けばいいのです。
説明を聞いて、「なるほど。そういう理由なら今回は任せよう」と思うこともあれば、「理由は分かった。でも私はこうしたい」と思うこともあります。
どちらでも構いません。
大事なのは、どうもしっくりこないという気持ちをうやむやにしたまま、あとから不満に変えないことです。
管理会社の考えを聞き、大家さんも自分の考えを伝える。違うところがあれば話し合い、最後にはお互いに「なるほどね。では今回はこうしましょう」というところまで決める。
そうしたやり取りが積み重なると、管理会社側にも「この大家さんには、きちんと説明すれば分かってもらえる」という安心が生まれます。少し判断が必要な場面でも、事情を考えながら動きやすくなります。
一方で、大家さんが安心して裁量を渡すためには、管理会社側にもやるべきことがあります。
大家さんは、物件の現場を毎日見ているわけではありません。入居者からどんな連絡があったのか、建物で何が起きているのか、工事がどこまで進んでいるのか。それを知るためには、管理会社からの報告が必要です。
報告や連絡が遅れたり、問題が大きくなってから初めて知らされたりすれば、「本当に任せておいて大丈夫なのだろうか」と不安になります。そうなると、それまで任せていたことまで気になり、小さな工事でも見積もりを確認したくなるし、何かをする前には必ず連絡してほしくなります。
大家さんが細かく確認するようになった背景に、管理会社側の報連相不足があることもあります。
大家さんがある程度の裁量を渡し、管理会社がその範囲で判断して動く。そして、何をしたのか、なぜそう判断したのかをきちんと大家さんへ返す。
大家さんもそれを聞いて、分からないことがあれば聞き、自分の考えがあれば伝える。
そうして「なるほどね。ではこうしましょう」というやり取りを重ねるうちに、少しずつ任せられる範囲も広がっていきます。
信頼関係とは、何でも任せることでも、相手の言うことを何でも聞くことでもありません。お互いの判断の理由が分かり、違うところがあれば話し合って決められることです。
「なぜこの人は、こう言うのだろう」と一度考えてみる
管理会社から「今回はうちで工事をやらせてほしい」と言われたら、「結局、工事で儲けたいだけなのでは」と思うかもしれません。
自分が頼みたい方法を断られれば、「面倒だからやりたくないだけでは」と感じるかもしれません。
そんなとき、その場ですぐに相手を正しい、間違っていると決める前に、
「この人は、なぜこう言っているのだろう」
と一度考えてみてください。
相手の立場や仕事の仕組みを考えてみると、「ああ、この人の立場では、こう考える理由があるんだな」と分かることがあります。
それが分かったからといって、相手の言うとおりにする必要はありません。
相手がそう考える理由は分かった。でも、自分には自分の事情や考えがある。そこで初めて、「では、ここをどうしましょうか」という話ができます。
相手の事情と自分の事情が違うところを見つけて、一つずつすり合わせていく。そうして、お互いに「なるほどね。ではこうしましょう」と話を終えられる関係を、普段からつくっておく。
いざというときに力を貸してもらえる関係は、いざというときに突然できるものではありません。
困ったときだけ連絡するのではなく、普段から相手の考えを知ろうとする。自分の考えも伝える。自分でやるところと相手に任せるところを決め、その境界について話をしておく。
管理会社とのそうした関係づくりも、長く賃貸経営を続けていくために、大家さん自身が考えておきたいことの一つです。


