
管理を任せているのに、共用部の荒れが気になる
久しぶりに物件へ行くと、ゴミ置き場がぐちゃぐちゃになっている。植栽も伸び放題で、自転車置き場には、以前から気になっていた放置自転車がまだ置かれている。
「管理会社に任せているのに、どうしてこのままなんだろう」
担当者に言ったほうがいいとは思う。でも、任せているのに細かく口を出すのも、少しためらう。結局、自分で全部見なければいけないのだろうか。
管理会社を選んだときに気になっていたのは、空室を埋めてくれるかどうか。入居付けに強そうだからとお願いして、建物のことも一緒に見てもらえると思っていた。それなのに、現地で目にした様子は、自分が思っていた管理とは少し違う。
そんなとき、気になっている場所について話すことは、大家さんが経営に関わる入口になります。「ここが汚い」と指摘するだけではなく、どういう状態にしておきたいのか、そのために何を頼みたいのか。そこまで伝えることで、管理会社との話が具体的になります。
サービスを受けるのは入居者。大家さんには現場が見えにくい
管理会社へお金を払っているのは大家さんです。一方、日々の管理サービスを実際に受けているのは、そこに暮らす入居者です。
ゴミ置き場を使うのも、乱れた自転車置き場から自転車を出すのも入居者です。何か不便があれば、管理会社へ連絡するのも入居者です。
大家さんが遠くに住み、物件へほとんど行かなければ、その様子はなかなか見えません。入居者と直接話す機会も少なく、管理会社へどんな連絡があり、その後どうなったのかまで分からないこともあります。
お金を払っている人が、サービスの届き方を日常的に見られない。 賃貸管理には、こういう難しさがあります。
管理会社からクレームの連絡が来ないことと、現場に困りごとがないことは、同じではありません。入居者が管理会社へ伝えていても、大家さんには届いていないかもしれない。何度か伝えても変わらず、言うことを諦めているかもしれません。
その間も、入居者は同じ場所で暮らしています。
任せているだけでは、こちらの希望は伝わらない
管理会社の仕事には、予定どおりに進まないトラブル対応があります。設備の不具合や入居者からの連絡が重なれば、そちらへ人も時間も取られます。
そうしたなかで、大家さんが何も伝えていない物件については、何を気にしているのか、どこまで対応を求めているのかが相手には分かりません。
何度も電話が来る。強く対応を求められる。そういう相手への対応に追われて、何も言わない大家さんの物件は、つい後回しになる。静かに待ってくれることに甘えて、対応が延びてしまうこともあります。
「忙しいだろうから、もう少し待とう」
「細かいことまで言ったら、悪いかな」
そう考えて我慢しているうちに、困りごとや希望が相手へ伝わらないままになることがあります。任せる側の配慮が、結果として「今は急がなくてもよいこと」と受け取られてしまうこともあります。
もちろん、ゴミ置き場が一度荒れていたからといって、すぐに管理会社がさぼっているとは決められません。清掃の直後に荒らされたのかもしれないし、対応を進めるうえで事情があるのかもしれません。
まず何が起きているのかを聞き、そのうえで、自分は何を気にしているのかを伝える。管理会社が悪いと決めつけるだけでは止まっていた話も、具体的な対応を相談するところまで進められます。
見えない入居者の不満が、退去につながることもある
大家さんが知らない間にも、入居者の日々の小さな不便は積み重なります。
自転車置き場がいつも使いにくい。ゴミ置き場が汚れたまま。管理会社に連絡しても、なかなか変わらない。
一つひとつは、その場ですぐ引っ越すほどのことではないかもしれません。それでも、「ここは何かあっても対応してもらえない」という不満につながることはあります。
そうした不満が残ったまま、ある日、退去の連絡が来ることもあります。大家さんには、そこに至るまでのやりとりが見えていません。
「また退去になった。次の入居者を早く決めてもらわないと」
そうして、再び募集へ目が向きます。もし日常管理への不満が退去の一因だったとしても、そこが変わらなければ、次の入居者も同じ不便を感じる可能性があります。
退去にはさまざまな理由がありますから、管理の悪さが原因だと決めつけることはできません。ただ、入居付けの結果だけを見ていると、入居したあとの暮らしに何が起きているかを見落としてしまうのです。
経営の方向を決めるのは、大家さん
賃貸経営は、もともと持っていた土地の活用を勧められて始めたり、家族から引き継いだりすることもあります。自分から事業を始めようと決めたわけではなく、必要な仕事を周りに任せているうちに経営が続いてきた。そうした経緯では、「自分が経営者だ」という意識を持つ機会が少なかったかもしれません。
けれど、どんな状態の物件を維持し、どこにお金を使い、何を任せるか。そうしたことを考え、決めていく立場にいるのは大家さんです。
管理会社に任せることは、経営の方向まで相手に預けることではありません。
大家さんが「この物件をどういう状態にしておきたいか」を伝え、管理会社は建物や設備についての知識、現場の経験、仕事を動かす体制を使って、必要な対応を考える。提案や説明を聞いたうえで、どうするかを大家さんが判断する。
同じ物件を見ながら、それぞれの役割で関わっていく関係です。
専門家の力を借りながら、自分が経営する。管理会社へ任せるというのは、そういう関わり方でもあります。
現場で希望を伝え、提案を聞いて仕事を任せる
まずは、ときどき物件へ足を運び、管理会社の担当者に会い、話すことです。遠方なら簡単ではありません。それでも、現場を見て、そこで起きていることを一緒に話す機会はつくっておきたいものです。
何を大切にし、どの仕事を任せたいのか。任せた仕事について、何を期待しているのか。現場を見ながらなら、言葉にしにくかった希望も具体的に伝えられます。
たとえば、ゴミ置き場の状態が気になったら、まず、今の清掃や対応がどうなっているのかを聞きます。そのうえで、こう伝えてみます。
「ここは入居者が毎日使う場所なので、気持ちよく使える状態にしておきたいです。今の清掃でこの状態が続くなら、どうしたらよいでしょうか。日々の清掃や確認はお願いしたいので、追加の対応や費用が必要なら、内容を聞かせてください」
自分が何を気にしていて、何を頼みたいのかが伝われば、契約に含まれている仕事なのか、別の手配が必要なのか、大家さん自身が判断することなのかを具体的に話せます。
任せたつもりだった仕事が、そもそも依頼の範囲に入っていないと分かるかもしれません。反対に、依頼している仕事が行われていないと分かることもあるでしょう。それぞれ、次に話すことは違います。
たとえば、清掃回数を増やす提案が返ってきたら、回数を増やすことで今の問題が変わるのか、ほかに考えられる対応はないか、費用はどれくらいかを聞く。その説明を踏まえて、何を頼むかを自分で決めます。
何を、いつごろまでにしてもらうのかを確認し、その後どうなったかも確かめる。会って話したことを、その場限りにしないことも大切です。
こうしたやりとりを通じて、担当者には、大家さんが自分で経営を考え、そのうえで仕事を依頼していることが伝わります。何も言わず「全部お任せします」で済ませると、何を大事にしてほしいのかまで、相手に察してもらうことになります。
声を荒らげたり、細かな文句を重ねたりする必要はありません。「この物件を経営しているのは自分です。そのうえで、この仕事をあなたに任せています」という姿勢を、具体的な依頼と自分の判断で示すことです。
入居付けを期待して管理会社を選ぶのは、自然なことです。空室が埋まることは、賃貸経営にとって大切です。
そのうえで、入居した人が日々受けている管理にも目を向ける。会い、話し、現場を見ながら、何を任せ、何を自分で決めるかをはっきりさせる。
次に物件へ行くときは、気になっている場所を一つ、担当者と一緒に見てみてください。「ここを、こういう状態にしておきたい」と、自分の希望を伝えてみる。
経営者としての関わり方は、そんな具体的なやりとりから始まります。自分で方向を決め、そのために管理会社の力を借りる。その積み重ねが、自分なりの任せ方をつくっていきます。


