
前は、こんなに待たなかった
空室が出ること自体は、もちろんはじめてではありません。
すぐに決まったこともあれば、少し時間がかかったこともあります。それでも、1か月もすれば決まり、長くても2、3か月あれば埋まるものだと思っていました。
ところが、その2、3か月が、いつのまにか当たり前になっています。
そして今回は、それよりも長い。
管理会社に聞いてみると、「今は動きが少ない時期で」と言われます。そういう時期もあるのだろうと思いながら、また月が変わる。
それでも、どこかで引っかかっています。
前は、こんなに待たなかったはずだ、と。
「募集しています」の先は、任せてきた
空室が出ると、管理会社と相談しながら、家賃や敷金、礼金などの募集条件を決めます。
部屋の準備が整い、「募集を始めました」「広告は出しています」と連絡を受ければ、あとは問い合わせが入り、内見があって、次の入居者が決まるのを待つことになります。
広告を作り、ポータルサイトに掲載したり、ほかの不動産会社へ情報を届けたりするのは、任せた先の仕事です。大家さんがその一つひとつを把握していなくても、これまではその流れで決まってきました。
だから、「募集しています」と聞けば、必要なところへ、必要な形で情報が出ているのだろうと受け取るのは自然なことです。
どのような写真や情報が、部屋を探している人に見えているのか。似た条件の部屋と並んだときに、どのように見えるのか。その情報を扱える不動産会社が、どのくらいあるのか。
そこまで確かめなくても、これまでは困りませんでした。
けれど最近は、募集を始めてから時間がたっても、決まらなくなってきています。以前と同じように募集しているはずなのに、以前と同じようには動かない。
そうなったとき、「募集しています」という一言だけでは、いま何が起きているのかまでは分かりません。
募集には、「広告の見え方」と「つなぐ窓口の広がり」がある
「募集しています」と聞くと、まず思い浮かぶのは、広告が出ているかどうかだと思います。
もちろん、広告が出ていなければ、部屋を探している人に見つけてもらうことはできません。ただ、広告を出しただけで、募集の体制が万全であるとも言い切れません。
募集の状態を確かめるときは、性質の違うふたつのことに分けると考えやすくなります。
ひとつは、広告がどう見えているかです。
部屋を探している人のスマホ画面に、どのような写真や情報が表示されているのか。似た条件の部屋と並んだときに、どのように見え、どのように比べられているのか。こちらは、入居する部屋を探している人から見た広告の話です。
もうひとつは、物件と入居希望者をつないでくれる不動産会社が、どのくらいあるかです。
こちらは、いくつのポータルサイトに広告が掲載されているか、という話ではありません。その物件をお客さんに紹介し、問い合わせを受け、内見へ案内し、入居までつなぐことのできる不動産会社が、どのくらいあるのかという話です。
どれだけよい広告を用意しても、その物件を紹介してくれる不動産会社が限られていれば、入居希望者と出会う機会も限られます。反対に、多くの不動産会社が紹介できる状態になっていても、広告を見た人が興味を持たなければ、問い合わせにはつながりません。
つまり、募集を見直すときには、部屋を探している人から見た広告の見え方と、物件と入居希望者を結びつける窓口の広がりを、分けて確かめる必要があります。
そして、このふたつは確かめ方が違います。
広告がどう見えているかは、実際の募集を検索すれば、自分の目で確かめられます。一方、どのくらいの不動産会社が物件を紹介できる状態なのかは、ポータルサイトを眺めても分かりません。
まずは、自分で確かめられる広告の見え方から見ていきます。
探している人には、どのように見えているか
部屋を探している人は、はじめから物件名を知っていて、その部屋を直接検索するわけではありません。住みたいエリアや家賃の上限、間取り、駅からの距離、必要な設備などの条件を入れ、表示された物件の中から候補を探します。
そのため、最初に確かめたいのは、探している人が入れそうな条件で検索したときに、自分の物件が結果に出てくるかどうかです。
実際には付いている設備でも、募集情報に登録されていなければ、その設備を条件にして探している人の画面には表示されません。どれだけよい部屋でも、検索結果に出てこなければ、候補に入ることはできません。
条件による絞り込みを通ると、同条件の部屋が一覧に並びます。
そこに表示されるのは、主に外観の写真と、家賃や管理費、間取り、広さ、築年数、駅からの距離などの基本的な情報です。探している人は、それらを見ながら気になる物件をいくつか選び、順番に中身を確かめていきます。
室内の写真が見られるのは、詳細ページを開いてからです。
そこで初めて、同じくらいの広さでも、明るく広く見える部屋と、暗く狭く見える部屋の違いが見えてきます。条件だけでは大きな差がなかった物件も、いくつか開いて見比べると、受ける印象は同じではありません。
設備が写っていても、そこでの暮らしが浮かびにくい写真もあります。
キッチンの写真を開いたら、シンクだけが大きく写っている。浴室は浴槽だけ、クローゼットは閉じたまま。何が付いているかは分かりますが、それだけでは、そこでどのように過ごすのかまでは想像しにくいものです。
自分の物件だけを開いて見れば、「まあ、普通だろう」と感じるかもしれません。
けれど、部屋を探している人は、ひとつの物件だけを見ているわけではありません。検索結果から気になった物件をいくつか選び、それぞれの写真や条件を見ながら、候補を比べています。
自分の物件がどう見えているかを確かめるには、物件名で直接検索するのではなく、部屋を探している人と同じ条件で探してみることです。
その検索結果に自分の物件が出てくるか。どのような物件と一緒に並んでいるか。そして、候補になりそうな物件をいくつか開いたときに、自分の部屋がどのように見えるか。
そこまで見て初めて、自分の物件が入居希望者にどのように見えているかが分かります。
写真を見直すなら、誰に何を見せるかを考える
ほかの物件と見比べてみると、自分の部屋は少し暗く見える、広さが伝わりにくい、暮らす様子が浮かびにくいといったことに気づくかもしれません。
そうしたときは、今の写真をどのように見直せるか、まず管理会社と相談してみることになります。
大家さん自身が撮影に行かなければならない、という話ではありません。部屋の写真は、撮る位置や明るさによって印象が大きく変わるため、必要であれば撮り直しをお願いしたり、どのような写真を増やせるかを一緒に考えたりするほうが現実的です。
ただ、明るくきれいに撮り直せば、それだけで十分とも限りません。
写真を見た人が、その部屋で暮らす様子を思い浮かべられるようにするには、部屋全体の広さや家具を置ける場所、部屋どうしのつながりなどが分かる見せ方も必要です。
空室の写真だけでは暮らしが浮かびにくい場合には、家具や小物を置いて見せるホームステージングや、画像上で家具を配置し、暮らしたときの様子を見せる方法もあります。こうした工夫も、部屋の使い方を伝えるための選択肢のひとつです。
そのときに考える軸になるのが、この部屋に、どのような人に住んでもらいたいかです。
たとえば、一人暮らしの女性に向いている部屋だと考えるなら、収納の中がどのくらい使えるのか、玄関から室内がどのようにつながっているのか、キッチンや洗面所をどのくらいの広さで使えるのかが気になるかもしれません。設備だけを近くから写すのではなく、その周りも含めて見せたほうが、暮らす様子を想像しやすくなります。
小さなお子さんのいる家族に向いている部屋なら、リビングと隣の部屋がどのようにつながっているのか、キッチンからリビングの様子が見えるのか、玄関にベビーカーを置けそうかといったことが、部屋を選ぶ材料になります。
同じ部屋でも、誰が住むのかを思い浮かべるかによって、見せたい場所や写真の撮り方が変わります。
これは、入居者を一種類に決め、その人以外を対象から外すという話ではありません。この部屋の特徴は、どのような人の、どのような暮らしに合いそうかを、一度具体的に考えてみるということです。
写真をきれいにするだけではなく、住んだあとの暮らしが伝わるように見せる。そこまで考えることで、広告の見え方は変わってきます。
これまで、どこの不動産会社が決めてくれたか
ここからは、もうひとつの募集の状態を見ていきます。
物件と入居希望者をつなぐ窓口が、どのくらいあるかという話です。
入居者を探すのは、管理会社だけとは限りません。不動産会社同士で情報を共有するための仕組みがあります。その仕組みを通じてほかの仲介会社にも情報が届けば、管理会社とは別の店でも、その物件をお客さんに紹介し、内見へ案内できるようになります。
ただ、自分の物件を実際にどのくらいの会社が扱っているのかは、ポータルサイトを見るだけでは分かりません。
そこで、これまでの入居者を思い出してみます。
前の入居者を決めてくれたのは、どこの不動産会社だったでしょうか。その前は、さらにその前はどうだったでしょうか。
長く賃貸経営をしている大家さんなら、「あのお店は、よくうちの物件を決めてくれる」という心当たりがあると思います。
いつも同じ数店舗から決まっているなら、入居希望者につながる窓口は、そのあたりに偏っているのかもしれません。反対に、毎回違う会社から決まっているなら、さまざまな窓口から紹介されてきたと考えられます。
記憶が曖昧な場合は、これまでの契約書類に記載されている仲介会社を見返すと、実際の顔ぶれを確かめられます。
ただし、窓口は、多ければよく、少なければ悪いと単純に決められるものではありません。一社でも、その物件をよく理解し、責任を持って動いてくれている場合もあるからです。
ここで知りたいのは、良し悪しではなく、いまの募集がどのくらいの広がりを持っているかです。
管理会社には、こう聞いてみます。
「うちの物件は、今、どのくらいの不動産会社が紹介できる状態になっていますか」
現状を把握できたら次に考えたいのは、その不動産会社が、物件をお客さんへ紹介しやすい状態になっているかどうかです。
窓口があっても、紹介しやすいとは限らない
物件を紹介できる不動産会社が多ければ、それだけ入居希望者とつながる機会は増えます。
ただ、募集情報が届いていることと、その物件を実際にお客さんへ紹介してもらえることは、同じではありません。
仲介会社には、たくさんの物件情報が届きます。その中から、目の前のお客さんの希望に合いそうな物件を探し、特徴を説明して、内見の候補に入れていきます。そのときに、「この物件は、どのような人におすすめなのか」が分かると、紹介しやすくなります。
紹介しやすいというのは、物件の条件を知っているだけではなく、目の前のお客さんに、なぜこの部屋が合いそうなのかを説明できるということです。
たとえば、「駅から少し歩きますが、そのぶん静かに暮らせます」「築年数はたっていますが、収納が多く、荷物の多い方にも使いやすい部屋です」といったように、物件の特徴と、その特徴が合う人の暮らしがつながっていると、紹介するときの言葉が生まれます。
これは、大家さんが直接仲介会社に営業して伝えなければならない、という話ではありません。
先ほど考えた「この部屋は、どのような人の、どのような暮らしに合いそうか」を管理会社にも伝えて、不動産会社どうしで情報を共有する仕組みに載せておいてもらうということです。
管理会社や仲介会社が、その物件の特徴を理解していれば、条件の合いそうなお客さんが来たときに、「この部屋なら合うかもしれません」と思い出してもらいやすくなります。
反対に、募集情報が多くの会社へ届いていても、家賃や間取りなどの条件しか分からず、誰に向いているのかが見えなければ、似た物件の中に埋もれてしまいます。
窓口の数だけではなく、その先で物件を紹介する人が、誰に、どのように勧めればよいか分かる状態になっているか。
そこまで含めて、物件と入居希望者をつなぐ窓口だと考えます。
任せることと、分からないままにすることは違う
広告を作ることも、写真を撮ることも、入居希望者を案内することも、大家さんが自分ですべて行う必要はありません。管理会社や仲介会社に任せてよい仕事です。
ただ、募集を任せることと、自分の物件がどのような状態で募集されているのかを分からないままにすることは、同じではありません。
部屋を探している人に、広告がどう見えているのか。物件と入居希望者をつなぐ窓口が、どのくらいあるのか。そして、どのような人に向いている部屋だと伝わっているのか。
そこが分かれば、管理会社とも「家賃を下げましょう」や「もっと頑張ってください」という会話だけではなく、いまの募集のどこを見直すかを一緒に考えられます。
それでも決まらない理由が見えてこないときは、問い合わせ、内見、申込みのどこで止まっているのかを確かめます。
募集を任せたままでも、状況を知り、自分で考えるところまで手放す必要はありません。


