
決まらないまま、月だけが過ぎていく
空室が続くと、家賃のことが頭をよぎります。
いまの家賃は、まわりと合っていないのだろうか。少し下げれば、問い合わせが増えるのだろうか。
募集サイトを見ていると、近くに新しい賃貸住宅が建っていることに気づきます。去年も、新しい物件が建った気がする。
新しい物件が増えているのなら、うちは家賃を下げなければ難しいのかもしれない。
その一方で、同じくらいの築年数で、うちより高い家賃をつけている部屋もあります。それを見ると、家賃だけの問題ではないようにも思えてきます。
管理会社に状況を聞いてみても、「少し家賃を下げた方が、決まりやすくなるかもしれません」と言われるくらいです。
下げれば決まるのかもしれない。けれど、本当にまた家賃を下げるしかないのだろうか。
そう思いながら、決められないまま、またひと月が過ぎていきます。
いろいろ試した。でも、これまでと同じようには決まらなかった
空室対策を何もしていなかったわけではありません。
募集条件を見直したり、広告料を増やしたり、内見に来た方が気持ちよく部屋を見られるように、スリッパやウェルカムボードを用意したり。空室が出るたびに、できそうなことをひとつずつ試してきた方も多いと思います。
家賃を少し下げることも、これまでに何度かありました。
「少し下げた方がいい」と言われて、「それなら千円だけ」と応じる。すると問い合わせが増えて、ほどなく次の入居者が決まる。
家賃を下げることは、これまで実際に効いてきた手です。
だから今回も、これまでと同じように少し下げました。これなら、そろそろ決まるだろう。以前と同じように、一か月もすれば動くだろうと思っていました。
ところが、二か月たっても、まだ決まりません。
問い合わせや内見がまったくなかったわけではない。それでも、これまでなら決まっていた頃を過ぎても、空室のままです。
以前と同じように対策をして、以前と同じように家賃も下げた。それなのに、今回は同じようには動かなかった。
これまですぐに決まっていたのは、その部屋を探している方が、ちょうどそのタイミングで現れてくれていたからかもしれません。今回は、まだその方に出会えていないだけ、ということもあります。
どちらにしても、部屋が空いたままであることは変わりません。
いろいろ試してきたからこそ、次にどこを見直せばよいのかが分からなくなってしまいます。
部屋が決まるまでには、順番がある
空室対策には、それぞれ狙いがあります。
たとえば、広告料を増やすのは、仲介会社から紹介してもらう機会を増やすためです。内見用のスリッパやウェルカムボードを用意するのは、部屋を見に来た方に、少しでもよい印象を持ってもらうためです。
どちらも空室対策ですが、同じ問題に対する対策ではありません。
部屋が決まるまでには、順番があります。
まず、募集していることを知ってもらう必要があります。募集情報を見つけてもらい、その部屋が気になれば、問い合わせが入ります。問い合わせのあと、実際に部屋を見てみたいと思ってもらえれば、内見につながります。そして、部屋や建物の様子を見たうえで、ここに住みたいと思ってもらえれば、申込みに進みます。
募集を見てもらう。問い合わせが入る。内見に来てもらう。そして、申込みに至る。
空室対策は、この流れを少しずつ先へ進めるためのものです。
広告料を増やすのは、仲介会社から紹介される機会を増やすための対策です。けれど、すでに何度も内見されているのに決まらないのであれば、決めきれない理由は、ほかにあるのかもしれません。
反対に、まだ問い合わせがほとんどないのであれば、スリッパやウェルカムボードを用意しても、その効果を感じられるところまで人が来ていません。
どの対策も、やること自体が間違っているわけではありません。ただ、部屋が決まるまでの順番と、その対策の狙いが合っていなければ、期待したような結果にはつながりにくくなります。
2つの数字で、いまどこで詰まっているかが分かる
では、自分の部屋が、決まるまでの順番のどこで詰まっているのか。どうすれば分かるのでしょうか。
まず確認したいのは、2つの数字です。
この1か月に、問い合わせが何件あったか。そのうち、内見に何件つながったか。
問い合わせがほとんどないのであれば、募集情報を見つけてもらい、興味を持ってもらうまでの間のどこかで止まっています。
問い合わせはあるのに内見につながっていないのであれば、部屋に関心は持たれているものの、実際に見に来てもらうところまでは進んでいません。
内見には来てもらえているのに申込みがないのであれば、見てもらうところまでは進んでいて、見たあとに選ばれていないということです。
問い合わせの数と内見の数は、空室対策の成績をつけるための数字ではありません。部屋が決まるまでの流れが、いまどこまで進んでいるのかを見るための目印です。
ご自分で入居者を募集し、内見の案内までしているのであれば、この数字は手元で分かります。
一方、管理会社に募集や案内を任せている場合、問い合わせ数や、そのうち何件が内見につながったかは、手元の資料だけでは分かりにくいことがあります。
なので、この2つは、管理会社に聞いて確かめることになります。
詰まっているところで、見直すことは変わる
2つの数字を見て、どこに課題があるのかが分かると、次に見直すものも変わります。
問い合わせがほとんどないとき
問い合わせがほとんどないときは、まず、募集情報がきちんと届いているかを確認します。
ひとつは、部屋を探している方に届いているかです。
募集サイトを検索して、自分の部屋が掲載されているかを確認します。あわせて、写真や設備、募集条件が正しく載っているかも見ておきます。
もうひとつは、その部屋を紹介する不動産会社に届いているかです。
賃貸の募集情報には、部屋を探している方が見る募集サイトとは別に、不動産会社どうしで情報を共有する仕組みがあります。そこに情報が出ていれば、管理をお願いしている会社以外の仲介会社も、その部屋を紹介できます。
反対に、募集サイトには掲載されていても、不動産会社どうしに情報が十分に行き渡っていなければ、部屋を扱える会社は限られます。紹介してもらえる窓口も増えません。
募集サイトに出ていることと、紹介できる不動産会社へ情報が届いていることは、別々に確認する必要があります。
その両方に出ていることが分かったら、次に、ほかの部屋と並んだときにどう見えるかを確認します。
写真や設備、募集条件、家賃の釣り合いが取れているか。家賃を下げるだけでなく、見せ方や中身を整えることでも、その釣り合いは変えられます。
問い合わせはあるのに、内見につながらないとき
問い合わせが入っているということは、募集情報は見つけてもらえていて、部屋にもある程度の関心を持たれています。それでも内見につながっていないのであれば、問い合わせを受けてから、実際に部屋を案内するまでの流れを確認します。
ひとつは、案内しやすい状態になっているかです。
仲介会社の担当者は、一日に何件もの部屋を案内することがあります。そのなかで、鍵を受け取るために管理会社へ立ち寄らなければならない部屋と、現地ですぐに開けられる部屋があれば、後者のほうが予定に組み込みやすくなります。
鍵をどこに預けているのか。案内のたびに受け取りや返却が必要なのか。当日の問い合わせでも見てもらえる状態になっているのか。
部屋そのものに問題がなくても、案内までに手間がかかれば、別の部屋が先に候補へ入ることがあります。
もうひとつは、募集の状況をすぐに確認できるかです。
空いているのか、すでに申込みが入っているのか。募集条件に変更はないのか。誰に連絡すれば、最新の状況が分かるのか。
こうした情報の確認に時間がかかったり、掲載されている内容が古かったりすると、仲介会社はお客さまを待たせることになります。その間に、条件がすぐに確認できる別の部屋へ案内が決まることもあります。
問い合わせがあるのに内見につながらないときは、部屋の魅力が足りないと決めつける前に、見たいと思った方を、無理なく案内までつなげられる状態になっているかを見ておきます。
案内する側の手間を減らし、必要な情報がすぐに分かるようにすることも、内見の機会を増やすための空室対策です。
内見には来てもらえているのに、決まらないとき
内見まで進んでいるということは、募集情報を見つけてもらい、実際に部屋へ足を運んでもらうところまでは進んでいます。
一度の内見で決まらなかったからといって、すぐに部屋や募集条件に問題があるとは限りません。探している方の希望や、ほかに見た部屋との兼ね合い、そのときのタイミングもあります。
ただ、何度か内見が入っているのに決まらない状態が続くのであれば、実際に見たあとで、決めきれない理由が残っていないかを確認します。
ひとつは、募集情報から受ける印象と、実際に見た部屋に差がないかです。
写真では明るく見えたけれど、実際には室内が暗かった。設備が揃っているように見えたけれど、古さが目についた。きれいな写真を見て期待して来たものの、まだ清掃や補修が十分に終わっていなかった。
募集情報を見たときに思い描いた部屋と、実際に見た部屋の印象に差があると、内見には来てもらえても、その先へは進みにくくなります。
もうひとつは、敷地に入ってから部屋へ着くまでが、どのように見えているかです。
内見する方が見るのは、室内だけではありません。敷地に入れば、植栽やゴミ置き場、駐輪場、建物の入口、郵便受け、廊下や階段を通って部屋へ向かいます。
植栽が伸びたままになっていたり、ゴミ置き場が荒れていたり、共用部に私物が放置されたままになっていたりすると、室内をきれいに整えていても、物件全体にあまり手が入っていないように見えることがあります。
そこで暮らす方にとっては、部屋の中だけでなく、敷地へ入ってから自分の部屋へ着くまでのすべてが、毎日の生活の一部です。
内見まで来てもらえているのに決まらないときは、紹介される機会をさらに増やすよりも、募集情報を見たときの期待と現地の印象が合っているか、部屋と敷地全体が一つの住まいとしてどう見えているかを確認します。
家賃は、どこで使うかを考える
家賃も、空室対策のひとつです。
家賃を下げれば、募集サイトで探している方の条件に入りやすくなり、ほかの部屋と比べたときにも選ばれやすくなります。内見した方が迷っているときに、最後の決め手になることもあります。
家賃は、部屋が決まるまでのいくつもの段階に効く手です。だから、これまでも実際に効いてきましたし、管理会社から提案されやすいのも不思議ではありません。
ただ、効く範囲が広いからこそ、どこで決まりにくくなっているのかを確かめないまま、最初から家賃だけを動かすと、どこに効いたのかが見えにくくなります。
募集サイトで明らかに見劣りしていて問い合わせが少ないのであれば、募集の最初から家賃を調整することが必要な場合もあります。しかし、内見はあるもののなかなか決まらないという状況が続いているのであれば、迷っている方との最後の調整に使う方が効くこともあります。
募集の初めから、これ以上は下げられないという金額まで下げてしまえば、あとで「もう少し条件が合えば決めたい」という方が現れても、残せる余地がありません。
家賃を下げることが、悪いわけではありません。
なぜ下げるのか、下げることで何を動かしたいのかを確かめたうえで、大家さん自身が納得できる金額を決めることが大切です。
値下げの返事は、数字を確かめてから
管理会社から「少し家賃を下げた方が、決まりやすくなるかもしれません」と言われても、その場で返事をする必要はありません。
まず、「この1か月の問い合わせは何件で、そのうち内見は何件でしたか」と聞いてみます。
これは、管理会社を問い詰めたり、値下げに反対したりするための質問ではありません。部屋が決まるまでの流れが、いまどこまで進んでいるのかを、大家さんと管理会社が同じように見るための質問です。
「この1か月の問い合わせは何件で、そのうち内見は何件でしたか」
家賃の話に進む前に、まずはこの質問からです。


