建物の断面図のように仕切られた部屋が横に連なり、その下を配管が通っているイラスト
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なぜかお金が残らない、なんでだろう?

滞納があるわけではありません。家賃は毎月きちんと入ってきますし、口座の残高が極端に減っているわけでもない。

それなのに、なぜか手元にお金が残っていない気がする。気づけば、いつの間にかなくなっている。無駄遣いをしているつもりもないのに、なぜなんだろう。

この記事は、その「なんでだろう」を、まだうまく言葉にできずにいる方のための記事です。

なんでだろうと思いながらも、とにかく何とかしたくて、検索で見つけた記事を参考に対策をしてみる。賃貸オーナー向けの雑誌を読んだり、イベントに出かけてみる。管理会社に相談して、おすすめされたホームステージングを取り入れてみる。知り合いの不動産会社に聞けば、「今が売り時だと思うよ」と言われることもあります。

世の中には、たくさんの賃貸経営マニュアルやノウハウがあります。実際の賃貸経営で使われ、役立ってきた方法も多くあります。

ただし、それらがすべて「あなた」や「あなたの物件」に当てはまるとは限りません。

難しいのは、対策が多くて選べないことよりも、どの対策が自分や自分の物件に合うのかを確かめないまま、周囲のすすめに流されてしまいやすいことです。

この記事では、具体的な対策を探す前に、まず何を見ればよいのかを整理していきます。

よかれと思って試したことが、少しずつ裏目に出る

例えば、こんなことはないでしょうか。

エアコンや洗面台を自分で購入して、材料支給で管理会社に工事だけ頼む。クロスを自分で貼ってみる。入居者からの設備トラブルの依頼を、一次対応だけして先送りにする。管理会社を変えてみる。

ひとつひとつを見れば、どれも間違った判断とは言い切れません。実際に、その方法でうまくいった人もいるはずです。

ところが、同じことを自分の物件で試してみると、思っていたのとは違う結果になることがあります。

部材を自分で用意したら、管理会社や職人とのやり取りがかえって増えた。「取引のないメーカーなのでなにかあっても責任を持てません」と言われた。設備の交換を後回しにしていたら、入居者が退去してしまった。管理会社を変えたら、担当者とうまくいかなくなってしまった。小さな不具合をその場しのぎで済ませているうちに、建物全体が少しくたびれてきた。

そして何より、費用を抑えようと自分で抱え込むほど、自分の手間ばかりが増えて疲れてしまった。

よかれと思ってやっているのに、なぜかあちこちで裏目に出ている気がする。ただ、どこで間違えたのかまでは、うまく説明できない。

目の前のひとつを何とかしようとするうちに、ほかのところへどんな影響が出るのかが見えなくなっている。いわば、木を見て森を見ず、という状態です。

見直す場所は、支出だけではない

手元にお金を残そうとすると、まず支出を減らすことに目が向きます。 管理料を下げる。修繕費を抑える。自分でできることは自分でやる。もちろん、支出を見直すことは大切です。

ただ、手元に残るお金は、支出だけで決まっているわけではありません。

家賃や入居率などの収入、管理費や日々の経費などの運営費、借入金の返済、所得税や固定資産税などの税金、そして将来の修繕や突然の出費への備え。賃貸経営のお金は、大きくこの5つの場所を通っています。

たとえば、支出を少し減らしても、空室期間が長くなれば収入は減ります。運営費に大きな問題がなくても、返済額が重ければ手元には残りにくい。今は問題なく回っていても、減価償却が終わって税金が増えたり、大きな修繕が重なったりすれば、状況は変わります。

どこかひとつだけを見ていても、手元に残らない理由は分かりません。

先ほどの「木を見て森を見ず」でいえば、収入、運営費、返済、税金、修繕や備えは、それぞれ森をつくっている木のようなものです。目の前の一本だけを何とかしようとする前に、まず森全体を眺めてみる必要があります。

きっちりと数字を出さなくても、最初は構いません。

空室の期間が長くなっていないか。以前より運営費が増えていないか。返済額が重く感じられないか。税金がいくらかかっているか把握できているか。修繕に備えるお金を分けて持てているか。

まずは、この5つの場所のうち、どこが気になるのかを眺めてみる。具体的な対策を考えるのは、そのあとです。

同じ対策でも、合う人と合わない人がいる

気になる場所が見えてきたら、次は、その場所に合う対策を考えていきます。

ただし、同じ場所に問題が見つかったからといって、誰もが同じ対策を取れば同じ結果が出るわけではありません。どの方法が合うかは、現状のお金の流れや物件の状態、自分がこの先どうしたいかによって変わります。

たとえば、収入を増やすために、部屋をリフォームやリノベーションして家賃を上げる方法があります。この先も長く持ち続け、相続まで見据えている物件であれば、家賃収入だけでは測れない意味を持つこともあります。一方で、近いうちに売却を考えている物件なら、過剰な投資になる場合もあります。

運営費を見直す場合も同じです。自分で物件の状態を確認し、管理会社や業者とやり取りできる人なら、任せている業務を一部減らせるかもしれません。しかし、管理にかけられる時間がない人が同じように削れば、必要な対応まで行き届かなくなる可能性があります。

返済の負担が重い場合も、今の資金繰りを少しでも楽にしたいのか、将来の支払総額を減らしたいのかで、考える方向は変わります。税金や修繕への備えも、物件の規模や築年数、この先どれくらい持ち続けるつもりなのか、今後どんな支出が見込まれるのかによって、選ぶ対策は違ってきます。

つまり、対策の良し悪しだけを見ても、自分に合うかどうかは分かりません。

見る必要があるのは、自分のお金が今どのように流れているか、物件がどんな状態にあるか、そして自分がこの先どうしたいかです。

お金の流れに余裕があるのか。物件に先送りしている不具合はないか。この先も長く持ち続けたいのか、どこかで手放したいのか。自分で管理に関わりたいのか、できるだけ人に任せたいのか。

これらの条件が違えば、同じ対策でも、効き方は変わります。

誰かの物件でうまくいった方法が、自分の物件にもそのまま当てはまるとは限らない。反対に、ほかの人には向かない方法でも、自分の現在地や目的に合っていれば、選択肢になることがあります。

大切なのは、対策を見て自分の物件に当てはめるのではなく、自分の物件を見て対策を考えることです。

そのうえで、支出を見直すときには、なんでも減らせばよいわけではありません。次に考えたいのは、「削るか、削らないか」ではなく、どこにお金を使い、どこには使わないのかという、お金の使い方です。

どこにお金を使い、どこでは使わないか

賃貸経営を続けていく以上、お金はかかります。管理会社へ支払う費用もあれば、建物や設備を維持するためのお金も必要です。入居者に長く住んでもらうために、手を入れたほうがよい場面もあります。

大切なのは、どこに使い、どこには使わないのかです。

まず考えたいのは、メリハリです。

内容をよく確認しないまま払い続けている管理料や、今はほとんど使っていないサービスがあれば、見直す余地があるかもしれません。一方で、建物の不具合や設備の故障など、放っておけば状態が悪くなるものまで削ってしまうと、あとからもっと大きな負担になって返ってきます。

小さな不具合を我慢して使い続ける。修繕を先送りする。入居者からの要望を、壊れるまで待ってもらう。

そのときはお金を使わずに済んだように見えても、虫歯と同じで、見えないところで少しずつ悪くなっていることがあります。やがて大きな工事が必要になったり、入居者の退去や空室につながったりすれば、今度は収入の側へ影響が出ます。

使わなくてよいところには使わない。使う必要があるところには、きちんと使う。まずは、このメリハリで考えます。

もうひとつは、使ったお金が、その場でなくなるのか、あとにも残るのかという見方です。

たとえば、空室が出るたびに広告料を増やして入居者を集める方法は、そのときには効果があります。ただ、次に空室が出れば、また同じ費用が必要になるかもしれません。

一方で、部屋の使いにくいところを直したり、古くなった設備を入れ替えたりすれば、次の募集でもその状態を活かせます。入居者が居心地よく長く住んでくれれば、退去や募集にかかる費用が減る可能性もあります。

もちろん、何か形に残れば、すべてよい投資になるわけではありません。使った金額に見合うのか、自分の物件や今後の方針に合っているのかは、ひとつ前の章で見た条件と合わせて考える必要があります。

それでも、「安いか、高いか」「削れるか、削れないか」だけでなく、このお金は何のために使い、あとに何を残すのかと考えると、選び方は少し変わります。

お金を残すために、何も使わないのではありません。今の物件と、これからの賃貸経営に必要なところへ、納得して使えるようにする。そのための見直しです。

小さな見直しも、大きな判断も考え方は同じ

ここまで見てきた考え方は、日々のお金の使い方だけに当てはまるものではありません。

管理料を見直す。設備を交換する。修繕をどこまで行うか考える。こうした日常の判断も、借り換えや売却、建て替えのような大きな判断も、見るべきものは同じです。

大きな判断になるほど、「まだ早いのではないか」「もう少し様子を見たほうがよいのではないか」と慎重になります。もちろん、現在地を確認しないまま、勢いだけで動くのは危険です。

ただし、慎重になることと、判断を先送りすることは同じではありません。

返済の負担が重く、毎月の資金繰りが苦しくなっているなら、早めに金融機関へ相談したほうがよいこともあります。相続する人がおらず、今後の管理にも不安があるなら、売却を含めた検討を早く始める意味があります。建て替えを考えるのであれば、入居者への説明や退去までの時間も必要です。

反対に、まだ十分に使える建物を、古いという理由だけで建て替える必要はありません。周囲から売却を勧められても、自分が長く持ち続けたいのであれば、売らないという選択肢もあります。

「今すぐ動く」も「しばらく待つ」も、それだけで正解になるわけではありません。

小さな支出を見直すときと同じように、自分のお金の流れ、物件の状態、この先の目的を並べて考える。そのうえで、今動くのか、準備だけ始めるのか、もう少し待つのかを決めていきます。

判断の大きさが変わっても、考え方まで変える必要はありません。対策の名前や周囲の意見から決めるのではなく、自分の現在地から考える。その順番は同じです。

そして、現在地も目的も、ずっと同じままではありません。今選んだ答えが、この先も変わらず正しいとは限らないのです。

今の答えが、これからもずっと正しいとは限らない

ここまで、自分のお金の流れ、物件の状態、この先どうしたいかを見ながら、対策のとり方や動く時期を考えてきました。

ただ、この3つは、ずっと同じではありません。

今は返済の負担が気になっていても、数年後には修繕の負担が大きくなっているかもしれません。今は自分で管理に関われても、年齢や仕事、家族の状況が変われば、同じようには動けなくなることもあります。

物件の状態も変わります。建物は古くなり、設備は入れ替えの時期を迎え、周辺の賃貸市場も少しずつ変わっていきます。

そして、自分がこの先どうしたいかも変わります。

今は長く持ち続けたいと思っていても、相続する人の考えを聞いて、方針が変わることもある。反対に、手放そうと思っていた物件でも、家族との話し合いや資金状況によって、持ち続ける選択肢が残ることもあります。

だから、今日選んだ答えは、あくまで今の状況に対する答えです。

今の時点で納得できる判断をしたからといって、この先ずっと同じ判断を守り続けなければならないわけではありません。状況が変われば、見直してよいのです。

一度決めたことを変えるのは、判断を間違えたということではありません。お金の流れや物件の状態、自分の目的が変わったから、それに合わせて選び直したということです。

賃貸経営の見直しは、一度きりの答え探しではありません。

そのときどきの現在地を確かめながら、今の自分と物件に合う答えを選び直していく。そうやって、長く付き合っていくものです。

対策に振り回される側から、自分の目で見て選ぶ側へ

手元にお金を残したいと思うと、つい「何をすればよいか」を先に探したくなります。

けれど、対策を探す前に見る場所は、すでに自分の物件の中にあります。

収入、運営費、返済、税金、修繕や備え。この5つを眺め、お金の流れ、物件の状態、自分がこの先どうしたいかを重ねて考える。

そうすれば、誰かの成功例をそのまま真似るのではなく、自分の物件に合う対策を考えられるようになります。

最初から、すべてを正確に把握する必要はありません。まずは「このあたりが気になる」と当たりをつけるだけでも、見え方は変わります。

返済したあとに実際いくら残っているのかを数字で確認したいときは、手残りの測り方を整理した記事(確定申告だけでは見えない、賃貸経営の課題の見つけ方)が役に立ちます。満室なのに苦しい、帳簿では黒字なのにお金が残らない。その仕組みからたどりたいときは、それぞれの違和感を扱った記事(満室なのにお金が残らない?家賃収入だけでは見えない経営の余力黒字の中身を見る。元金返済と減価償却が生む帳簿のズレ)から確認できます。

そして、状況はこれからも変わっていきます。今いちばん納得できる答えを選び、変わったらまた選び直していく。一度で正解を出すことよりも、その繰り返しのほうが大切です。

その先の具体的な手段や、大きな判断をひとりで抱えるのが難しいときは、一緒に整理できる相手がいると、見直しを続けやすくなります。