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賃貸経営の課題を、自分の言葉で言えますか

確定申告は、毎年ちゃんと出している。 管理会社から届く収支報告書にも、一応目を通している。 銀行から決算書を求められれば、税理士が作ってくれたものを提出している。

それなのに、

「今、賃貸経営の一番の課題は何ですか」

と聞かれると、うまく答えられないことがあります。

返済が重いのか。 運営費がかかりすぎているのか。 それとも、近いうちに大きな修繕が控えているのか。

反対に、

「今、賃貸経営でうまくいっているところはどこですか」

と聞かれても、すぐには思い浮かびません。

数字は毎年そろえているし、必要な書類も提出している。 けれど、その数字が何を表しているのか、自分の言葉では説明できない。

書類を出していることと、賃貸経営の中身を分かっていることは、どうやら同じではなさそうです。

書類は見ていても、経営の中身は見えにくい

確定申告書や決算書には、賃貸経営に関する数字が載っています。管理会社から届く収支報告書にも、収入や管理料、修繕費など、その年に動いたお金が記録されています。

これだけの書類が毎年そろっているのだから、経営の状態も把握できているように思えます。けれど、それぞれの書類は、オーナーが経営上の課題を見つけるために作られているわけではありません。

確定申告書は、所得と税額を計算して申告するための書類です。決算書は、事業の一年間の結果を数字でまとめたもので、管理会社の収支報告書は、管理会社が取り扱った家賃や支出の内容を報告するために作られています。

どれも必要な書類ですし、書かれている数字が間違っているわけでもありません。ただ、作られた目的が違うため、そのまま眺めているだけでは、「賃貸経営では何にお金がかかっているのか」「手残りを細くしているのは何か」「今の条件のまま残した方がよいものはどれか」といった、経営判断に必要なことまでは見えてきません。

自分で確かめようとして、書類を開いたことがある方もいるかもしれません。ところが、数字がいくつもの書類に分かれており、確定申告書や収支報告書、通帳を行き来しても、どこをどうつなげて見ればよいのかが分かりません。

そうしているうちに面倒になり、

「税理士に任せているから、まあ大丈夫だろう」 「通帳を見る限り、だいたい回っているからいいか」

と、書類を閉じてしまいます。

書類がないから、経営の中身が分からないのではありません。税務や報告のために整理された数字を、オーナー自身が経営を考えるための形に並べ直して見ていないから、分からないのです。

使う数字は同じでも、何のために見るかが変われば、見えてくるものも変わります。

経営を見るために、数字を4つに並べ直す

経営の中身を見ようとしても、確定申告書や決算書を最初から最後まで読み解く必要はありません。まずは、いくつもの書類に分かれている数字を、次の4つに分けて並べてみます。

数字どこで拾うか
収入管理会社の収支報告書や通帳等
運営費管理会社の収支報告書や支払いが分かる書類、通帳等
返済ローンの償還予定表(返済予定表)や通帳等
税金確定申告書、住民税の通知書、固定資産税・都市計画税の納付書等

これは、細かな勘定科目を正しく分類するための作業ではありません。賃貸経営で入ってきたお金が、何に使われ、最後にどれだけ残っているのかを、大きな流れで捉えるための分け方です。

まず収入では、その年に賃貸経営で得たお金を合計します。家賃や共益費、礼金、更新料、駐車場収入などがここに入ります。一方で、返還する予定の敷金や保証金のように、一時的に預かっているだけのお金は、収入とは分けて考えます。管理会社に入金の管理を依頼している場合は、収支報告書を確認すると早いでしょう。

運営費では、管理料や清掃費、保険料、設備点検費、修繕費など、賃貸経営を続けるために使ったお金を集めます。管理会社を通して支払ったものだけでなく、自分で個別に依頼し、直接支払ったものも忘れずに確認します。収支報告書のほか、領収書やカード明細、通帳なども手がかりになります。

返済では、金融機関へ返済した金額を見ます。確定申告書や決算書では、元金の返済は経費として扱われませんが、実際には利息と一緒に現金が出ていきます。手元に残るお金を見るときには、経費に載っている金額だけでなく、実際の返済額全体を見る必要があります。

税金では、固定資産税や都市計画税のように物件の所有に対してかかるものに加えて、賃貸経営で得た所得に対応する所得税や住民税も確認します。複数の物件を所有している場合は、無理に物件ごとへ分ける必要はありません。ただし、賃貸所得以外の所得がある場合、所得税や住民税の全額をそのまま賃貸経営の負担とはできません。どこまでを賃貸経営の負担として見るか分からない場合は、税理士に確認するとよいでしょう。

こうして4つの数字を並べると、賃貸経営で入ってきたお金が、運営費や返済、税金にどれくらい流れているのかが、大まかに見えるようになります。

ただし、ここで分かるのは、まだ経営の輪郭です。運営費が年間でいくらだったか、返済にいくら出ていったかが分かっても、その金額が何によって構成されているのかまでは見えていません。

経営の中身を知るには、4つの数字を並べて終わるのではなく、その奥にある内訳を、もう一段開いて見る必要があります。

合計額を内訳まで開くと、違いが見えてくる

たとえば、年間の運営費が380万円だったとします。

380万円という合計額だけを見ても、それが高いのか低いのかは分かりません。物件の規模や設備、管理の内容によって、必要な費用は変わるからです。

運営費の内訳を見ると、管理委託料、共用部の清掃費、火災保険料、消防設備などの点検費、入居者を募集したときの広告費、修繕費、原状回復工事、共用部の水道光熱費など、さまざまな支出が含まれています。受水槽やエレベーターなどの設備があれば、それぞれの点検やメンテナンスにかかる費用も加わります。

合計額のまま見ていたときには、「運営費は年間380万円」としか分かりませんでした。ところが、内訳をひとつずつ見ていくと、これまで疑問にも思わなかったことが目に入るようになります。

収入も同じです。前年より収入が減っているとしても、空室期間が長くなったのか、家賃を下げたのか、滞納があったのかによって、考えるべきことは変わります。礼金や更新料、駐車場収入など、家賃以外の収入が前年と違っていることもあります。

返済についても、毎月の返済額だけでなく、元金と利息の内訳や現在の金利、返済が終わる時期まで見ると、同じ返済額でも経営に与える意味が違うことが分かります。

税金も、「税金はいくら払った」で一つにまとめるのではなく、固定資産税・都市計画税と、所得税・住民税を分けて見ることで、何に対する負担なのかが見えやすくなります。

4つの数字は、経営の中身を見るための入口です。内訳まで開くことで、合計額だけでは分からなかった変化や違いが見えてきます。

ただ、内訳が分かっただけでは、まだ「高い」「安い」「見直すべき」とは判断できません。次に確かめたいのは、その数字が生まれた理由や、今の条件です。

金額より先に、その数字の理由を知る

内訳まで見えるようになると、「この費用は高いのではないか」「この収入はなぜ減ったのか」と、気になる項目が出てきます。

そこで、金額だけを見て結論を出す前に、その数字が何によって生まれたのかを確かめます。

たとえば、共用部の清掃費であれば、どのくらいの頻度で、どの範囲を清掃しているのでしょうか。設備点検であれば、どの設備に対するもので、法律上必要な点検なのか、それとも任意で依頼しているものなのか。保険料であれば、どのような補償内容になっているのかを確認します。

修繕費も、今年だけの突発的な修繕なのか、経年劣化で毎年のように繰り返している支出なのかによって、見え方は大きく変わります。収入が減っている場合も、空室、賃料、滞納など、理由が違えば対処方法も変わります。

経営を見るということは、金額だけを見ることではありません。

「何によって生まれた数字なのか」 「いつから、この条件なのか」 「今も同じ理由や条件が続いているのか」

そこまで分かって初めて、その数字を経営判断の材料として使えるようになります。

残すもの、確認するもの、まだ分からないもの

数字の理由や条件まで見えてくると、すべてを一律に「見直す対象」として扱う必要はないことが分かります。

現在の借入条件や保険の内容が、自分にとって有利な条件になっているのであれば、金額が大きくても、あえて残した方がよいかもしれません。一方で、長い間内容を確認していない契約や、今も必要なのか分からない支出は、一度立ち止まって確かめる余地があります。

ただし、この段階ですぐに「変える」「変えない」を決める必要はありません。まずは、それぞれの項目を、

  • 今の経営を支えているもの
  • 一度確認した方がよいもの
  • まだ判断材料が足りないもの

に分けてみます。

この仕分けができると、すべてを同時に見直そうとせず、今どこを見る必要があるのかが分かるようになります。

まずは、手元の書類を並べてみる

ここまで読んで、自分の賃貸経営でも確かめてみようと思ったら、まずは手元にある書類を並べるところから始めてみてください。

用意したいのは、主に次のようなものです。

  • 管理会社の収支報告書
  • 賃貸経営に使っている通帳や支払いの記録
  • ローンの償還予定表や返済予定表
  • 確定申告書の控え
  • 住民税の通知書
  • 固定資産税・都市計画税の納付書

すべてが完璧にそろっていなくても構いません。まずは、今あるものだけで、収入・運営費・返済・税金の4つを大きく並べてみます。

次に、それぞれの内訳を見ながら、「これは何のお金か」「何によって生まれた数字か」「いつからこの条件なのか」を確認していきます。

すぐに答えが出ない項目があっても、それは失敗ではありません。これまで気にしていなかった費用や、内容を説明できない契約が見つかったなら、それだけでも経営の中身を知るための前進です。

すべてを一度に調べたり、その場で見直したりする必要もありません。まずは、

「ここは今の条件を残した方がよさそうだ」 「ここは一度確認した方がよさそうだ」 「これは自分だけではまだ判断できない」

と仕分けるところまでで十分です。

この棚卸しは、毎月行う必要はありません。年に一度、確定申告の時期などに書類をそろえて見直すだけでも、前年との違いや、見過ごしていた変化に気づきやすくなります。

確定申告を書類の提出と納税のためだけの作業にせず、そこでまとめた数字を、自分の経営を見るためにも使ってみる。そうすると、賃貸経営の中身が少しずつ自分の目で見えるようになってきます。

課題は、金額の大きなところにあるとは限らない

賃貸経営の数字を並べ、内訳や条件まで見ていくと、どうしても金額の大きな項目が目につきます。返済額、管理委託料、保険料、修繕費。金額が大きければ、そこを削ることが経営改善につながるように感じられるかもしれません。

しかし、返済額が大きくても、低い金利で長期間借りられているのであれば、その条件は今の賃貸経営を支えているものかもしれません。反対に、一回あたりの金額はそれほど大きくなくても、何のための費用か分からないまま支払い続けているものや、勧められるまま続いている契約には、立ち止まって確認する余地があるかもしれません。

つまり、課題があるのは、必ずしも一番お金が出ていくところではありません。理由や条件を説明できない場所に、今見るべき論点が隠れていることがあります。

一方で、数字を開くことで見つかるのは、課題だけではありません。今の金利や契約条件、長く付き合ってきた管理会社との関係など、現在の経営を支えているものが見つかることもあります。それは、安易に動かさず、次の判断にも引き継いでいきたい経営上の資産です。

経営の中身を見るとは、削れる費用を探すことではありません。

今の賃貸経営を支えているもの、確認した方がよいもの、まだ分からないものを分け、自分が次に考えるべき場所を見つけることです。

一人で整理するのが難しいときは

書類をそろえ、数字を並べ、内訳や契約条件まで確認していく作業は、一人で進めるには骨が折れることもあります。

確認したいことは見えてきたけれど、どこから考えればよいのか決めきれない。そんなときは、今ある数字や書類を一緒に並べながら、経営の中身を整理していく方法もあります。

見えてきた論点を、どこから確認していくか考えたい方は、賃貸経営の細り方を見分ける記事(手元にお金を残したいとき、対策より先に見るお金の通り道)もあわせてご覧ください。