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満室なのに、通帳を見ると不安になる

満室経営。 家賃の滞納もなく、毎月きちんと振り込まれている。

それなのに、通帳を見ると、思ったほど増えていない。

管理委託費を払い、修繕費を払い、ローンを返す。固定資産税の納付書も届く。払うものを払い終わると、手元にはあまり残っていない。

そんなとき、ある部屋からエアコンが壊れたと連絡が入る。交換見積もりは10万円を超える。この間、給湯器も交換したばかりなのに、また出費が重なる。

別の部屋では、来月退去の連絡。最近は空室期間が長くなりがちだから、今回も管理会社から家賃を下げる提案が来るかもしれない。満室を維持するためには仕方がないと思う一方で、お金が足りるか心配になる。

満室なのに。

そんなとき、ふと思うかもしれません。

「自分は経営が下手なんだろうか」 「何かを見落としているんだろうか」 「そもそも、自分は何のために賃貸経営をやっているんだろう」と。

満室率だけでは、経営の余力は分からない

満室なのに手元のお金が増えない感覚は、経営能力の問題というより、自分の取り分まで含めた「積み増す力」を見られているかで整理できる場合があります。

どんな大家さんも、賃貸経営は利益を出すためにやっています。自分や家計に回すお金がゼロでも構わないと思って物件を持っている人は、おそらく少数派でしょう。

それでも、賃貸経営の中では、いつの間にか自分の取り分が後回しになりがちです。

家賃が下がる提案を受け入れ、修繕費を払い、返済を続け、税金を納める。気がつけば、自分のために残るお金は思ったより薄くなっていた。

満室は、部屋が埋まっている状態を示すだけです。家賃から運営費、返済、税金を払い、さらに自分や家計に回したい金額まで引いたあとに、事業側へどれだけ残せるのかまでは示していません。

この記事では、その残せる力を「積み増す力」と呼びます。

積み増す力 = 家賃収入 −(運営費 + 返済 + 税金 + 自分の取り分)

ここでいう「自分の取り分」とは、大家さん自身の生活費、家計へ回したい金額、あるいは自分の働きに対して確保したい金額です。

※「積み増す力」は、税務上の所得や一般的な会計上の利益とは異なる、CCC-H独自の経営把握のための見方です。この記事では、主に個人で賃貸経営を行う大家さんを想定しています。

この見方を使って、いま積み増す力がどのくらいあるのか、過去と比べてどの方向へ動いてきたのかを確認してみます。

「満室=安定経営」とは限らない

満室なら経営は回っているはず。 家賃が入っているなら、毎月一定額は残っているはず。

そう思いたくなるのは自然なことです。空室が続いていた時期と比べれば、満室の今はずっとよい状態に見えます。

ただ、満室という状態が同じでも、その中身は時間とともに変わります。

満室なのに、家賃収入は少しずつ下がってきた。 満室なのに、エアコン1台の交換でひやっとする。 満室なのに、自分のために残せる金額は年々薄くなっている気がする。

確定申告書では黒字で、キャッシュフローはプラス。それでも、自分や家計に回す金額を含めて考えると、思ったほど余力がないことがあります。

この感覚には、賃貸経営が長く続く事業であることも関係しています。

家賃は、新築のときが上限になりやすく、時間が経つと設備や間取り、周辺の競合環境が変わります。満室を維持するために、募集のたびに家賃を少し下げてきた物件もあるでしょう。

一方で、運営にかかる費用は、新築のときが最も低くなりやすいものです。年月が経つにつれて、給湯器やエアコン、外壁、屋上防水、共用部設備などの修繕や交換が増えてきます。近年は、設備価格や工事費、人件費の上昇を感じる場面も増えています。

家賃が下がる方向へ動き、運営費が上がる方向へ動けば、その差は少しずつ狭くなります。そこから返済と税金を引けば、最後にしわ寄せを受けて調整されやすいのは、自分の取り分です。

もちろん、返済が終わる、家賃を上げる、運営方法を改善するなどして、積み増す力を高めている物件もあります。

重要なのは、満室かどうかだけでは、経営の変化を判断できないということです。

自分の経営能力が落ちたと思ってしまう前に、満室の中身がどのように変わってきたのかを見てみる必要があります。

今年と5年前を並べて、手元に残る力を見る

自分の物件がいまどのような状態にあるのかを見るには、今年と過去の積み増す力を、年単位で並べるのが分かりやすい方法です。

月単位では、固定資産税を払った月、大きな修繕が入った月、退去が重なった月などの影響が大きく、本来の力が見えにくくなります。1年を通して見ることで、収入と支出の全体がつかみやすくなります。

確定申告書の控え、通帳、管理会社の年間収支報告書、ローンの返済予定表などがあれば、必要な数字を拾えます。

1. 今年1年で、どれだけ積み増せたかを見る

たとえば、20戸の物件で、1戸あたりの家賃が6万円、1年間満室で経営できたと想定します。

項目年額
家賃収入1,440万円
運営費△288万円
ローン返済△576万円
税金△280万円
キャッシュフロー296万円
自分の取り分△240万円
積み増す力56万円

この例では、家賃収入から運営費、ローン返済、税金を引いても、キャッシュフローは296万円のプラスです。

数字だけを見れば、賃貸経営は問題なく回っているように見えます。

けれど、ここには、大家さん自身や家計のために使うお金は含まれていません。

賃貸経営から月20万円、年間240万円を自分の取り分として使っているとすれば、事業側に積み増せる金額は56万円です。

つまり、キャッシュフローはプラスでも、自分の取り分まで含めると、思っていたほどお金は残っていないことがあります。

その56万円も、退去後の原状回復、入居募集の広告費、数か月の空室、エアコンや給湯器の故障などが重なれば、簡単に足りなくなります。

足りない分は過去の蓄えから補っているのか。 それとも、本来は自分や家計に回したかった金額を減らしているのか。

満室なのに手元のお金が増えないと感じるときは、このどちらか、あるいは両方が起きている可能性があります。

数字は、築年数、借入額、税負担、自分の取り分によって大きく変わります。

大切なのは、自分の物件で、自分の取り分まで引いたあとに、いくら積み増せているかを確認してみることです。

2. 5年前と比べて、変化の方向を見る

今年の積み増す力が出たら、5年ほど前の数字でも同じ計算をしてみます。

3年前では変化がまだ小さく、差が見えにくいことがあります。5年から10年前の確定申告書や返済資料が残っていれば、時間による変化をつかみやすくなります。

すべての数字が完全にそろわなくても、まずは次のふたつがわかれば概算できます。

  • 家賃収入
  • 運営費

たとえば、5年前は家賃収入が今より5%高い1,512万円、運営費は5%低い274万円だったとします。 するとそこから計算できるキャッシュフローは382万円あり、そこから自分の取り分240万円を引けば、5年前の積み増す力は142万円あったことがわかります。

今年は56万円なので、満室という状態は同じでも、事業側へ積み増せる金額は86万円減っています。

これが、「満室なのに手元のお金が増えない」という感覚の正体のひとつです。

3. ひとつの原因だけで決めつけない

積み増す力が薄くなる原因は、ひとつとは限りません。

家賃が少し下がった。修繕や管理にかかる費用が少し増えた。空室期間が少し長くなった。税負担が増えた。金利が上がった。

それぞれは小さな変化でも、重なると、積み増す力には大きく影響します。

また、目の前に見える喫緊の課題に対処したとしても、全体としてよくなるとは限りません。

家賃を下げれば空室は埋まりやすくなっても、年間収入は減ります。修繕を先送りすれば一時的な支出は減っても、故障やクレーム、募集への影響が後から表れることがあります。管理委託費だけを下げても、募集や対応の状況まで変われば、最終的な結果は別になります。

どの判断も、その時、それ単独では筋が通っているように感じられます。

だからこそ、ひとつの課題を点で解決する前に、その判断が家賃、運営費、返済、税金、そして自分の取り分へどうつながるかを、線で見ることが大切です。

自分の物件でも、積み増す力を確かめてみる

まずは、今年と5年前の資料を一組ずつ用意します。

  • 確定申告書の控え
  • 通帳
  • ローンの返済予定表
  • 税金の支払いがわかるもの など

そこから、次の五つを年額で並べます。

  1. 家賃収入
  2. 運営費
  3. ローン返済
  4. 税金
  5. 自分や家計に回したい金額

家賃収入から2〜5を引いたものが、その年の積み増す力です。

数字がすべてそろわなくても構いません。ふたつの年を比べるだけでも、それぞれが増えたのか、減ったのか、横ばいなのか、自分の賃貸経営が、どの方向へ動いてきたのかが見えてきます。

ただし、積み増す力が薄くなっていたとしても、すぐに「家賃を上げる」「支出を削る」といった答えが決まるわけではありません。

家賃を見直せば、入居率や募集条件にも影響します。修繕を減らせば、将来の支出や物件の状態に影響するかもしれません。返済、税金、自分の取り分も、それぞれ切り離して考えることはできません。

  • 大きな修繕を控えているのか
  • 借入の返済期間がどのくらい残っているのか
  • 自分や家族の暮らしに、いくら残したいのか
  • 将来、誰にどのような状態で引き継ぎたいのか
  • 売却や組み換えまで視野に入れて検討するのか

オーナーの考え方や方針によって、優先して考えたいことは変わります。

「経営が下手」ではなく、「何が動いたか」を見る

CCC-Hでは、賃貸経営の余力を、家賃収入の大きさや満室率だけで判断しません。

運営費、返済、税金を払い、自分や家計に回したい金額も確保したうえで、事業側へどのくらい残せるのか。その積み増す力を、年単位で見ることを大切にしています。

個人の賃貸経営は、10年、20年と続くことの多いファミリービジネスです。

満室という外から見える形が変わらなくても、家賃、運営費、返済、税金、自分の取り分の中身は変化します。その結果、積み増す力が薄くなる方向へ圧力がかかることがあります。

積み増す力が不足すると、過去から積み上げてきた蓄えを取り崩すか、自分の取り分を削って帳尻を合わせることになります。

単発の修繕なら蓄えで対応できても、それが恒常的に続けば、蓄えはじわじわ目減りします。「今年は仕方ない。来年は取ろう」と自分の取り分を後回しにすれば、賃貸経営から自分のために得るものは薄くなります。

「自分は経営が下手なのか」という問いだけでは、次に何を見ればよいのか分かりません。

それを、

「自分の物件の積み増す力は、いまどのくらいで、過去と比べてどう動いてきたか」

という問いに変えると、確認すべき場所が見えてきます。

積み増す力が薄くなっているなら、家賃、運営費、返済、税負担、自分の取り分のうち、何がどのように変わってきたのかを分けて考えます。

すぐに一つの答えを出すのではなく、まず現在地と流れをつかむこと。それが、次の判断を考える出発点になります。

まずは、自分の賃貸経営に、いまどのくらい積み増す力があるのかを確かめてみてはいかがでしょうか。

なお、「帳簿上での黒字額と、通帳に残っている金額のギャップ」に違和感をお持ちの大家さんも多いと思います。 これは「満室と安定経営の混同」とは別の話で、元金返済や減価償却など、帳簿上の利益と手元の現金がずれる理由については、次の記事で整理しています。

数字を並べても、次に何を優先するか決めきれないときに

CCC-Hの【商品B賃貸経営の顧問サービス】では、これからどうしたいかというご本人の意向を伺いながら、賃貸経営の状況を一緒に整理します。

家賃、運営費、返済、税金、自分の取り分。

それぞれを個別に見るのではなく、物件の状態や今後の暮らし、家族への引き継ぎなども重ねながら、いま考えたい論点と選択肢、優先する順番を整理していきます。

こちらからひとつの正解を押し付けたり、判断を代行するものではありません。ご自身で納得して次の判断へ進めるよう、継続的に支援します。